その一方でエコーチャンバーによるコンテンツの偏りは起きないでしょうか。
確かに、そのような問題はあります。ただ、台湾人の大多数は他者の考えを気にするので、主筆が他の意見を排除するようなことはほとんど生じません。報道の角度についても、よほど偏っていると思わない限り私が口を出すことはありません。叱責する時は、正確な事実に基づいて叱責します。もう一つ重要なのは、どの国も平等に扱い、同じ基準で見ることです。
これまでに一緒に仕事をしてきた嘉玲、凱莉、動眼神経は皆インフルエンサーとしての経験があり、論戦の経験も豊富で、彼女たち自身その点を明確に認識しています。私は、彼女たちのニュースの掌握力は一般のテレビ局の記者より高いのではないかと感じています。例えば動眼精神は自ら同性婚の運動にも参加したことがあるなど、テーマによっては私より深くとらえています。ですから報道の基本的要求にかなっており、心配する必要もありません。
プロがニュースの判読方法を教える
フェイクニュースが横行し、報道の質も千差万別ですが、
ニュースのソースはどのように選ぶのでしょうか。
先ほど地方取材の重要性について述べましたが、私は記者が実際に取材しているメディアしか見ないので、結局従来型メディアしか読みません。私が朝一番に読むのはニューヨーク・タイムズで、これは長年の習慣です。続いてウォール・ストリート・ジャーナルやイギリスのガーディアン紙を読みます。新型コロナウイルスの状況や証券市場の暴落といった速報でない限り、あまりテレビは見ません。ですが、ラジオ、特にアメリカのNPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)は非常によく聞きます。他のセルフメディアはあまり見ませんが、韓半島新聞プラットフォーム(K-News Online)のように記者が現地にいるメディアは、地方取材の不足を補えるので時々見ます。
資金に限界があるため現地取材が難しいことがセルフメディアの致命傷と言えます。
この点を補強するお考えはありますか。
そのために今は資料を集めています。現在、私たちのファンページには20万人を超える世界各地のフォロワーがいますし、その中には同業者もいます。私はそのリストをつくり、世界のどこかでニュースが発生した時、直接彼らの意見を聞こうと考えています。私たちがここで見聞きしたことを伝えるより信頼性が高いと言えるでしょう。この他に、年末のアメリカ大統領選挙取材のためのクラウドファンディングも考えています。これは資金のためだけではなく、人々の関心を高めるためでもあります。重要なのは参画していただくことです。参画すればそのテーマに関心を持つようになるからです。
范琪斐のアメリカン・タイム
報道の激戦地であるニューヨークで、従来型マスメディアの衰退と転換を目の当たりにして危機感を持つようになり、記者として働きながら自らの資金でセルフメディア「范琪斐のアメリカンタイム」を開設、帰国後に新たな事業に取り組み始めた。今は寰宇新聞台とLINEに番組を持つ。そのブランドの趣旨は「より多くの人に国際ニュースに関心を持ってもらう」ことだ。ビッグでハードなテーマを扱いつつ、ユーモラスで気軽な形を採り、若い世代に注目されている。
アレックス・リン
人生の前半をアメリカで過ごし、大学の広告学科を卒業してから台湾に戻って就職。ファッションカメラマンの林炳存やドキュメンタリー監督の楊守義に教えを請い、その後は広告やプロモーションビデオの監督として独立した。ロサンゼルスにいた頃からルーツの台湾に注目し続け、後にセルフメディア「台客劇場」を開設。帰国子女がフィルム制作を通してルーツを探っているかのようだ。
産業の趨勢:自由に声を上げる
メディアに進出する前は新聞学も学んだことがあるそうですが、この点についてお話しください。
大学では新聞学の授業も受けましたが、YouTuberとしてセルフメディアを運営することは、芸術家に似ていると思います。例えばドキュメンタリーは客観性より、自分の考え方の方を重視するからです。私の考えでは、客観というものは存在せず、すべては主観です。重要なのは「自分の主観が他者の役に立つかどうか」で、役に立つなら表現するべきだし、そうでなければ発信しないことです。ただ、公開するなら科学的根拠がなければ説得力はありません。
情報の判読:お気に入りのYouTuber
セルフメディア、ニューメディアがあふれていますが、あなた自身のお気に入りのYouTuberを教えてください。
よく見るのはVoxです。このチャンネルは時事問題を扱っていて、おもしろい質問をしてから、科学的な方法で答えるというものです。私はCasey NeistatとDan Maceが好きで、特にDan Maceの編集や音響効果、カメラワークなどは繊細で手が込んでいます。私は通常英語で思考しますが、中国語があまりうまく話せないので、呱吉や博恩のチャンネルを見て参考にしています。こうして融合することで、少しずつ自分のスタイルが作れればと思っています。
イノベーション精神:ビジュアル・ボキャブラリーを活かす
大学で広告を専攻し、監督としてプロモーション・ビデオやコマーシャル、テレビ番組などを制作してきましたが、これらの経験の影響はありますか。
広告を作るプロセスではたくさんのアイディアを出しあって、その中から最良のものを選びますが、「台客劇場」の撮影過程も広告制作に似ています。仲間と討論してアイディアを出し合うというプロセスが重要です。最近完成させたフィルムの内容は、海岸の植樹の重要性を伝えるものですが、そこで出たアイディアの一つは、建物を撮って、アニメ効果でそれを水没させるというものです。もう一つは私がスーツを着て海に入るというアイディアで、これらは一種のビジュアルコミュニケーションです。
台客劇場はドキュメンタリーです。ドキュメンタリーは第三者の立場で他者の物語を記録するものですが、あなたのフィルムはご自分の体験を切り口としていて、ドキュメンタリーらしくないようですが。
私は自分が興味のあるテーマを扱い、自分で試してみます。例えば健康というテーマなら、ケトン体健康法や断食などを実際にやってみます。その撮影のプロセスは、他の利益などよりずっと楽しく重要なものです。
YouTuberはアーティストのように好きだから撮っています。お金のためではなく、絵を描きたいから描く芸術家と同じで、ドキュメンタリーもパーソナルなものであってもいいと思います。例えば、マクドナルドをテーマにした「スーパーサイズ・ミー」というフィルムがあります。監督が自分の食生活と太っていく過程を記録したものです。「台客劇場」もこれに似ていて、記録でもあり、個人的なものでもあるのです。