古代ギリシアの哲学者、アリストテレスは、正義を「すべての人が相応の配分を受けること」と定義している。正義の追求は、大多数の人の目標だと思われるが、何をもって正義とし、また「誰」にとっての正義なのかは長年にわたって議論され、変化し発展し続けてきた。17世紀以降、ジョン‧ロックの天賦人権説が近代の民主主義の基礎を作り、自由と民主は、その後の各時代の人々が追求する核心的価値となった。台湾でようやく実現した民主主義もこの世界の流れに呼応したもので、人々が追求してきた「正義」「人権」と「自由」の具現化である。
台湾ではさまざまな場で「正義」と「人権」の追求が途切れることなく続いている。例えば、国立人権博物館では「私は子供、私には権利がある」特別展が開催され、影像上映やワークショップ、スタンプラリーなどの方法で人権教育のすそ野を若い世代にまで広げようとしている。南部出身のロックバンド「滅火器Fire EX.」は社会運動において、生き生きとした歌で群衆の運動を支持してきた。台北市民生地域にあるレストラン「食憶」は、退職したシニア世代を厨房に招いて料理を作ってもらい、人生に新たな価値をもたらすとともに、高齢者も職を持てることを証明した。
自由と民主主義の大地において、台青蕉や生祥楽隊など、地域に根差して声を上げるバンドが育まれ、サンプーイやアバオといった先住民歌手が、先住民の古い調べを輝かせている。北投にある鳳甲美術館では、史料やフィールドワーク、ゲームなどを通して地域に対する関心を呼び起こそうとしている。さらに、台湾の医療衛生ナショナルチームは東南アジアの友好国への協力に力を注いでいる。
ネット上に大量の情報があふれることで、世界の人と人とのコミュニケーションは増えたかもしれないが、自らその地を訪れてみなければ、異郷の文化は写真や映像や言葉、そして自分が描くイメージの範囲を超えないのではないだろうか。実際に触れてみてはじめて、私たちは自分だけの本物の経験と記憶を得られるのである。
「これは私と台湾との縁でしょう」と屏東科技大学の教授で、ドミニカ国出身のアルバート‧リントン‧チャールズは言う。今月号では、ドミニカ国とインド出身の二人の外国人にインタビューし、台湾へ来たきっかけと、その後に台湾で培った友情や思いを語っていただいた。世界各地に暮らす方々にも、ぜひ一度台湾に来て、ここの良さと人々の優しさに触れてみていただきたい。