文学編集者への道
初安民と言えば編集者として知られているが、作家としての成就はあまり語られることはない。実は早くから執筆活動を始め、高い評価を得てきたのである。1977年に一家で台湾に移住した後、彼は成功大学中文科に入った。1979年には学内の文学賞を受賞し、詩集を多数出してきた。
だが、彼が目指すのは編集者だった。「好きという思いがやがて使命感となり、さらに私がやらなくて誰がやるという強い意志へと変わった」と述べている。彼がこれまで従事した仕事は二つだけだ。最初は教職に就いた。台中の道明中学の教員になったが、自分の目指すものと合わず、一年で離職した。
その後は文学の編集者となり、以来35年のキャリアを積んできた。『聯合文学』で一般の編集部員から20年勤め上げ、その後『印刻文学生活誌』を創設するまでの間に雑誌『短編小説』の編集にも携わった。その間、一度も他の仕事に目移りしたり、編集の仕事を辞めたいと思うことはなかったと言う。
日本の評論家‧川本三郎は「文学だけが、挫折した者の小さな声に耳を傾けてくれる」という意味のことを述べており、初安民はこの言葉に心を動かされると言う。「私は文学を信仰しています。各世代の物語を記録できるのは文学だけで、それは歴史よりも真実であり、長い歳月の中で正義を追求できるものです。このような仕事に従事できるのは幸せなことで、今後も継続していかなければなりません」と言う。インタビューの間、初安民はしばしば夢が現実に摩耗されていくと自嘲しつつ、編集という仕事の話になると、真摯に初心を貫いていることをうかがわせた。
