患者でも人を励ませる
彼女は生と死の狭間をくぐりぬけ、医学的にはきわめて低いとされる生存率もクリアし、今では生命に対してより深い考えを持つようになった。多くの人は、がんになるのは非常に不幸なことだと考えるかも知れないが、彼女は、病というのは逆境であり試練であるだけでなく、一つの得難いギフトだと考えている。「この機会があったからこそ、21歳という年齢で、両親や友人とコミュニケーションをとり、自分自身と向き合い、夢を強く持つことができたのです。そのプロセスは不安に満ちていますが、人生に対するより大きな期待をも持たせてくれます」
治療は2012年に一段落したが、彼女の左足の神経はまだ完全に復元しておらず、穏やかな回復は継続中だ。しかも病気は再発の可能性もあり、定期的な追跡が必要で、がんとの平和的な共存は一生の課題である。しかし、がんになったからこそ、彼女は人生の一分一秒を大切にするようになった。「私たち骨肉腫の患者は、自分の時間を大切にして、心からやりたいことを完成させたいと思っています」と言う。
病気になったことで、限られた人生でやるべきことを可能な限りやりつくすことを知った。この思いがけない人生の旅はまた、自分に限界を定めないという道理も教えてくれた。彼女は縁に導かれるままに歩み、カレンダーの販売から個展開催、そして小阿布から生まれたブランド「阿布布思議」の展開までできた。こうしてオファーを受けることから始め、コラムを書き、さらに企業のブランドマーケティングやイベント企画まで手掛け、各地での講演にも招かれる。時間があればボランティアに行き、若いながらたくさんの肩書を持つようになった。
病気になってからの歩みを公開して以来、多くの前向きな反響が寄せられた。逆境の中で彼女が見せた勇気と、決して希望を棄てない強い生命力が、人生の谷底にいる多くの人へのエールになる。これだけではない。世界の統計では、骨盤の悪性骨肉腫の5年生存率は5~38%だが、主治医の陳威明によると、台湾では「現在の医療チームの5年生存率は80%に達すします」という。これを成し遂げたことは、張椀晴にとっての幸福であるだけでなく、医療チームにとっても大いに励みになることなのである。
「私たちの人生が他の人々の励みになるなら、それは非常に意義のあることです」と張椀晴は言う。がんのために、肉体的にはさまざまな制限を受けることとなったが、前向きな信念を持ち、しっかりした足取りで歩んでいく。一歩一歩は小さいかも知れないが、そこで見えてくる景色はかけがえのない素晴らしいものなのである。
張椀晴と台北栄総病院の陳威明副院長。厚い信頼を寄せられる陳威明は、患者から「陳おとうさん」と呼ばれている。
治療を乗り越えた張椀晴は病院でボランティアを務め、自身の経験を語ることで患者を励ましている。
張椀晴の修士課程修了作品「彩虹下的希望(虹の下の希望)」。動物たちは彼女に寄り添ってくれた友人たち、色とりどりの花は彼女自身を象徴しており、それが一緒になると虹のように美しい。