画家が見つめる台中清水
1996年、イヴァンと林秀娟は台湾で結婚して家族となり、妻の故郷である台中の清水に居を構えた。こうして清水の町がイヴァンの作品のテーマとなったのである。
彼は当時はまだ知られていなかった高美湿地をよく描いた。その頃はまだ木製の桟道もなければ風力発電の巨大な風車もなく、ただ八角形の灯台と、漁民を守る媽祖廟、海辺でエサをとるシラサギや渡り鳥がいるだけで、それは悠然として静かな光景だった。20年にわたり、彼は四季折々の、明け方や夕暮れ時の高美湿地の美を40枚余り描いてきた。
「高美湿地が最も美しく見えるのはどこ?」と林秀娟が聞くと、イヴァンは目を輝かせて「湿地に歩み入り、故郷を振り返った時の眺めさ」と答える。この角度から湿地を見る人は非常に少ないが、これこそ台湾特有の風景なのである。
清水は山と海に寄り添っている。山のふもとには古い民家が一列に並び、時折列車が通っていく。路地では柘榴がたわわに実り、池には優しい色の睡蓮が咲く。これらの情景がイヴァンのキャンバスにとどめられた。
イヴァンの作品を見て、これが外国人が描いたものだと思う人は少ないだろう。「イヴァンの良いところは、自分の観念を押し付けるのではなく、台湾に合わせようとしてくれるところです」と林秀娟は言う。
努力して現地の暮らしに溶け込もうとしているからこそ、ヘチマの鮮やかな黄色い花と赤レンガの古民家といった組み合わせの美を発見できるのであろう。丸々と育ったスイカが一面に砂地に並ぶ絵は人々を幸福な気持ちにさせるし、一面に鮮やかな黄色の菜の花畑には生命力があふれている。少し歪んで植えられた緑の田んぼと傍らの熟して垂れたバナナの木など、いかにも台湾らしい景観ばかりである。これら失われつつある台湾の田園の素朴な風景をウクライナ出身の画家が記録してきたのである。
イヴァンの手法は印象派に属し、屋外での写生によって暮らしの中の平凡な事物を描き出すとともに、時刻によって変化する光と影をとらえる。少年時代の超写実主義から印象派へと変わり、さらにnature minderという素朴な画風へと歩んできた。市場の好みに迎合することなく、しばしば野原の片隅で静かに台湾の美と向き合い、心に感じるままに描く。シンプルな輪郭に奔放な色彩を載せ、満開のハイビスカス、熟した稲穂、荒れ狂う波などを感じたままに描き出す。
その作品には、人生における巡り合いと歩み、そして心を寄せる大地との出会いが映し出されており、その台湾特有の田園の息吹に惹かれ、スイスやアメリカ、オランダ、日本などの人々がコレクションしている。
彼は描くことで郷愁をもいやしている。「自分をこの環境にとけ込ませ、ここの自然景観を愛することで、それほど郷愁にかられることもなくなりました」と言う。
豊かな色彩はイヴァンの人生に欠かすことができない。