創業19年の王品には11のブランドがある。最新の「石二鍋」は従来の王品グループの中心価格帯800~1000元を打破し、200元でお釣りがくるという低価格路線で、現在20店舗を展開している。
石二鍋のメニューは鍋料理だけで、カウンターが一列に並び、お客は鍋を食べながら、オープンキッチンの作業を見ることができる。
低価格のレストランへ進出するに当って、王品では頭を切り替える必要があった、と石二鍋を創設した曹原彰総経理は言う。ホールのサービスから食材、内部の事務作業まで、すべての面で十数年来の思考モデルを打破する必要があった。
石二鍋は「家の第二のキッチン」という位置付けで、料理を作らない家庭や単身者をターゲットとしており、他のレストランが会食や接待をターゲットとしているのとは全く異なる。
頭を切り替える
最初の課題は「より多くのサービスを」という習慣の打破である。オープン当初、曹原彰はしばしば店舗に立って「取捨選択」を行なった。例えば、最初はスープの出汁にキャベツと白菜を選べるようにしていたが、作業が煩雑すぎるため、キャベツのみとした。またテーブル席には一人用鍋を4つ置いていたが、友人同士数人のお客が座ると長居することが多いため、家族客用に一つの大鍋に変えて回転率を高めるようにした。
低価格市場で生き残り、なおかつ質を維持して利益を出すには明確な取捨選択が必要だと言う。
内部の事務作業の場合、他ブランドの店舗では一店にコンピュータを3台設置して注文とレジと出勤を分けて管理しており、それらを会計担当が管理しているが、単価の低い石二鍋では人手を増やすわけにはいかない。そこでコンピュータを1台にして、ホール担当が扱えるよう訓練し、コストを食材に回すようにしている。
消費量の多い野菜は、鮮度を保つ技術があるので、切り分けて管理するセンターを設け、品質検査を行なってから各店に配送している。
2年の努力を経て、石二鍋はすでに最良の経営モデルを確立し、2015年には100店舗まで拡張する予定だ。中国大陸への進出も見込んでおり、王品グループで店舗数最多のブランドとなる。
非凡な生活から創意が生まれる
「王品は低価格ブランドを発展させる必要がある」という戴勝益董事長の一声で、従業員たちは董事長の求める「思考の枠を打破する」企業文化を再び実践した。
「生活が非凡なら、考え方も非凡になる」というのが戴勝益の考えで、王品の創意はその企業文化から生まれる。有名な王品の「300単位」は、王品の社員は一生のうちに100ヶ国を旅し、100店を食べ歩き、100岳に上らなければならないというもので、店長、料理長、エリアマネージャー以上の管理職はこれを実践しなければならない。さらに、玉山に登り、日月潭を泳ぎ渡り、自転車で台湾縦断をするという「三鉄勇士」の認証もある。最近はさらにエベレストのベースキャンプ遠征という課題も加わった。
一見、経営や専門性とは無関係の活動ばかりだが、これが創意とどう関わるのだろう。
「凝り固まった思考を抜け出すのに最も直接的な方法は、環境を変えて頭を空っぽにし、リセットすることだ」と王国雄副董事長は著書『敢拼能賺愛玩』の中で述べている。
「王品では、旅行は生活と仕事の一部分であり、遊びもせず休暇も取らなければ皆から責められます」と王国雄は言う。旅先でのカルチャーショックは人の感受性を高め、サービス業の壁である「自己本位」を突破させる。もちろん、見聞を広めることで視野も広がる。
2008年の金融危機は世界に影響を及ぼしたが、王国雄は異国で文化の盛衰を感じたことで、金融危機も歴史のエピソードの一つに過ぎず、いずれは治まるものだと分かったと言う。
2009年、王品は「1.5億のコストダウン」を目標に掲げ、各店舗の従業員には、年間の純利益が17.5%に達すれば、前年に凍結された給与上昇分を支払うとした。その結果、天下太平の時期には気付かなかった無駄がたくさん見つかり、年末には目標を達成できた。
世界中を食べ歩く
王品の管理職は仕事漬けではなく、積極的に外へ出ていく。社員を率いて食べ歩きをすることも多く、行く先々でオーナーやシェフとの交流を試み、店の位置づけや料理、内装、サービスなどについて話を聞くようにしている。
管理職が部下を率いて海外へ食べ歩きに行くことも多い。現地の人気レストランやスーパーマーケット、デパートなどを訪ね歩いて観察し、それぞれに記録をとり、帰国後に話し合う。
百岳登山や三鉄勇士は体力と忍耐力と精神力を鍛えるものだ。300単位が実施された当初は、皆あり得ないと思ったが、今は400人以上が玉山に登り、百店を食べ歩いた人は数えきれない。
創意を奨励する企業文化は経営の各層に浸透している。高級管理職の「中央常務委員会」会議や200店舗からの毎月の提案、海外旅行、株主総会から忘年会まで、さまざまな創意が見られる。
一人の強いリーダーシップによる弊害を避けるため、王品では創業以来、集団経営方式を採用している。意思決定を行なう中央常務委員会は全国各地の25人の管理職から成り、毎週金曜に台中本部に集まる。午前の3時間は、優れたクリエーターによる講演だ。学界、政界、医薬、科学技術、ファッション業界など、毎回さまざまな分野の一流の人材を招いており、著名な人物には半年をかけて講演をお願いすることもある。
会議では高級管理職が、各店舗からの提案やさまざまな改善案を話し合う。
「一ヶ月に400にのぼる提案があり、それらを篩にかけて中央常務委員会に提出します」と戴勝益は言う。これほど手間をかけるのは、従業員の思考突破の訓練のためであり、また会社が彼らの提案を非常に重視していることを知ってもらうためでもある。提案が採用された従業員は人事考課で加点され、全社の忘年会で表彰される。採用され実行された200余りの提案も、王品が前進し続ける重要な動力なのである。
同僚は家族同然
一軒のステーキハウスから始まった王品グループは、今では台湾と中国大陸に223店舗を持つ。売上は当初の150万から、2011年には96億元に達し、レストラン業界のトップに躍り出た。業界では一般に離職率が10%に達する中、王品はいかにそれを3%に抑えてきたのだろうか。
「多くの企業は『マン・パワー』を最大限に発揮しようとしますが、私たちは『人の心』をより重視します」と王国雄は言う。企業の競争は人材の競争である。人材が会社のために力を尽くそうと思うのは、会社が家族のように関心を寄せてくれ、自分を成長させてくれるからである。会社が「材」だけを見て「人」を見なければ、社員も「財」しか見ず、いずれは会社を離れていく。
「家族主義」というのは単なるスローガンではない。福利厚生、利益分配、社内起業、医療サポートなどの措置にすべて反映されている。
王品では社員が入院した時、「企業関係部」が「医療協力システム」を起動する。順調に病室が取れるよう協力し、担当医の評判を調べ、評価が悪いようであれば、医師の変更を提案する。入院後は、家族によるケアが難しい場合、同僚が交替でケアできるようにする。
「勤続一年目以降の社員が働く能力を失った時は、原因が仕事ではなくても会社が生涯にわたってお世話をします」と王国雄は話す。その費用は「戴勝益同仁安心基金」から支払われ、対象は家族にもおよぶ。社員本人かその配偶者が働けなくなった時、中央常務委員会が等級を判断し、必要な医療費や世帯収入を考慮して毎月手当を支給する。万一、死亡という事態になった時は、子女が20歳になるまで基金会がケアを続ける。
「これらについて、王品は利益という角度では考えていません。単純に人に優しくありたいだけです」と王国雄は言う。こうした善意が会社全体を善の循環へと向かわせ、優秀な人材が集まってくるのである。
論語で会社を治める
王品は全社員とその家庭を重視しているが、それは儒家の「仁民愛物」の精神から来ている。
台湾大学中国文学科出身の戴勝益は常に『論語』を携行している。株式公開の説明会でも、業績ではなく、論語を基礎にした経営を語った。
『論語』には「車馬衣裘、朋友と共にし、これを敝(やぶ)るも憾みなからん」とある。そこで戴勝益は自分は株の20%しか持たず、その他はすべて幹部に分配している。さらに董事長の持ち株の80%を寄付、そのうちの年5000万元は全国の貧しい家庭の小中学生の奨学金とし、3000万は社員の救難救助金で、この他に毎月の利益の33%を翌月社員がシェアできるようにしている。
また「其の民を養うや惠、其の民を使うや義」という孔子の言葉から、会社の福利厚生は業界トップでなければならず、一人ひとりがライフプランを立てるべきだと考えている。
『論語』の郷黨編には、厩が焼けた時、孔子はまず人に怪我はなかったかと聞き、馬の損失は問わなかったとある。そこで王品でも、食器が割れたり誰かが転んだりした時、損失は問わず、人に怪我がないか関心を寄せている。
「王品の目標は、飲食業に携わるすべての人が胸を張って歩けるようにすることです」と戴勝益は言う。若い頃の海外旅行中、ミシュランで星を取ったレストランのシェフに、空港の税関の人が敬礼するのを見て、これが目標になった。
今、台湾の飲食業界でも、パン職人の呉宝春がフランスのコンクールで優勝し、中華の阿基シェフは60冊も本を出し、若者が尊敬し憧れる存在になっている。
飲食業の価値が向上する中で、王品は安定して働く幸福を生み出した。そして、数字を追うのではなく、「人を中心とする経営」こそが、利益を生むことを証明したのである。