美しい星空を守る
天体観測は劉志安の人生において欠かせない存在だが、思いがけず、光害防止にも取り組むことになった。
2013年、南投県が合歓山の鳶峰にLEDライトの記念碑を立てたことをきっかけに多くの天文ファンが星空を守る活動に乗り出した。
劉志安はニュージーランドのテカポを例に挙げる。ここは人口300~400人の小さな町だが、徹底した光害対策で、世界で初めて国際ダークスカイ協会(IDA)が認定する「星空保護区」となった。この認定によって、テカポは世界中の人が訪れる星空観賞スポットとなったのである。
テカポに倣おうと、劉志安は仲間とともに観光産業を手始めに、清境の民宿に光害防止を訴え始めた。それと同時に、同好の士に呼びかけて星空案内ボランティアの教育訓練を開始。星空ツアーの知識が現地で普及することを願っている。
劉志安は清境地域で、最初に光害対策に取り組み始めた二つの民宿に案内してくれた。仏羅倫斯山荘と観星園だ。民宿ではさまざまな照明が使われているが、彼らはそれぞれに工夫を凝らしている。庭のライトは上部を黒く塗り、電球のワット数を下げ、照明器具のカバーを曇りガラスに変えるなどして、光が上へ漏れないようにしている。清境エリアの民宿は、夜9時以降、屋外の大型照明を消すことにして、夜のステージを星空に返すことにした。
一般には明るい方が安全だと考える人が多いが、明るすぎると眩しくて視覚上の死角を生みやすいという。彼らもすべての照明を消すことを求めているわけではなく、重要なのは「適切な照明」なのである。街灯も真下を照らすように設置すれば、空を照らす光線は30~40%減らすことができる。照明も夜間モードを設けて明るさを調節すれば省エネになり、目を傷めることもない。
こうした動きを見て、政府部門も屋外照明に関する規範の制定に取り組み始めた。2018年7月、南投県と清境観光協会と天文団体は共同で、国際ダークスカイ協会に対し、「合歓山国際ダークスカイパーク」の認定を申請した。鳶峰の手前2キロ地点から合歓山登山口までの15キロにおよぶ範囲である。
もともと清境の星空の美しさは観光客に知られており、香港、マカオや東南アジア各国の人々が定期的に星空観賞に訪れている。台湾は地理的にも便利で、飛行機を降りて車で2時間余り移動するだけで、標高2000メートル以上の高山で星空を眺められる。光害の深刻な香港やシンガポールの愛好家にとっては羨ましい環境なのである。
昨年末、国際ダークスカイ協会は台湾を視察に訪れた。台湾は、韓国のヨンヤン‧ホタル保護区、日本の西表石垣国立公園に続いて、アジアで3番目の星空保護区に認定されることが期待されている。
今年4月1日、劉志安はフェイスブックで会社を退職することを発表した。これはエイプリルフールの冗談ではない。まだ53歳という若さで退職を決めたのは、全力で星空保護に取り組み、子供たちのために美しい夜空を残すためなのである。彼は現在の成果にはまだ安心できず、呼びかける人が減れば火は消えてしまい、再び活動を起こすのは難しくなると考えている。
星のまたたく夜空を見上げれば、何万光年もの彼方にある美しい星たちが人類の神話とつながっていることに気づかされる。そして星空に対する人々の好奇心が宇宙の旅への扉を開いたのである。星空観賞の旅に出れば、私たちと星空との距離は思っていたほど遠くはないことに気づくことだろう。
林宏欽は熟練した手つきで望遠鏡を操作する。彼が30年前に背負って山に上り、数えきれないほどの夜をともにしてきたパートナーなのである。
合歓山エリアは天体観測には絶好の条件に恵まれているが、それでも写真左下のように都市部の光害の影響を受ける。
合歓山鳶峰は星空観賞のメッカで、外国からも星を眺めに多くの人が訪れる。
庭の燈籠の上部を黒く塗れば、上へ向かう光をさえぎることができる。
どうすれば光害を減らせるか話し合う劉志安と観星園の経営者。
人間は生まれながらにして星空への興味を持っている。