伝統の線香が世界へ
香水と同じように、台湾の伝統の線香やお香も世界に認められている。天と神、祖先を敬う華人の文化において、線香は長い歴史を持ち、華人の暮らすところには必ず線香がある。歴史ある職業である線香作りは、伝統の職人の仕事でもある。1970年代に台湾が経済的に豊かになると、新たな廟が増え、お礼参りをする人も増え、線香産業も盛んになった。
その頃は線香の製造から卸売、小売まで利益は大きかったが、低価格の輸入品が入ってくるようになり、市場は大きく変化した。中間の卸売業が消え、線香工場も次々と店じまいし、伝統の作り方を守り抜いていた工場も、何らかの変化を必要としていた。70余年の歴史を持つ李慶成製香廠では、三代目の李建霖が引き継いだ後、従来の卸売商や店舗を通した販売から、ネット販売へと切り替え、消費者と直接取引することにした。
帰省して家業を継いで十年余り、李建霖は黙々と線香作りをしてきたが、市場は縮小し、壁に直面していた。そんな時に、顧客から世界に目を向けみたらどうかと勧められ、ネット販売にチャレンジしたのである。そしてインターネットを通して海外市場を開拓することに成功し、台湾の線香やお香をアメリカやドイツ、メキシコなどへの販売することとなった。チャレンジ精神にあふれる彼は、オーダーメイドの注文も受け、伝統のお香の中でもあまり見かけることのない元宝(中国の昔のお金)の形のお香を作ることにした。
李建霖によると、お香の種類としては、スティックタイプの立てるものや寝かせて置くもの、渦巻き型などがあるが、円錐などの置いて使うタイプのものは非常に珍しく、その中でも元宝型はめったに見られない。作り手が少ないため、消費者が注文しても受けてもらえないことがほとんどだ。お香が宗教や仏事で用いられるだけでなく、現代生活の中で空間の香りを楽しむものとなる中、さまざまな形が作れる置き物タイプは、李建霖にとってポテンシャルの高い製品である。台湾は工作機械の製造力が優れているため、彼はメーカーに金型で成形する機械と自動切断機などを発注した。工場では、従業員がEUの安全規格をクリアした機械を操作し、ビャクダンや漢方の香りがする元宝香を製造している。イメージしていた従来のお香の工場の様子とは大きく異なる。
元宝の形のお香が機械から出てくると、手作業で磨いて美しく形を整える。こうして口コミで評判が広がり、今ではシンガポールやマレーシアに安定的に輸出できるようになった。今では工場のマシンをフル稼働しても生産が間に合わないほどだ。野心家の李建霖は、台湾最大の元宝型お香のサプライヤーとなることを目標にし、世界に打って出ようとしている。
機械でプレスした元宝型のお香は、さらに手作業で磨いて角を修正し、ようやく美しい形に完成する。