ケア・サービスの先駆け
営利目的の清掃業者にとってはオフィスビル清掃や引越し清掃などが主なターゲットだが、彭婉如基金会は家庭でのサービスを対象としてきた。これは同基金会の「ケア・サービスの公共化」という理念による。
基金会は1997年の成立以来、地域のベビーシッター・システムや、地域による自治保育園、小学児童の放課後ケア、家事管理サービス、在宅ケア・サポートシステムなどを次々と生み出してきた。中でも「家事管理サービス・プロジェクト」は最も急速に発展して就労人数も最多、ケア・システムの中心的存在である。女性の就労を大きく促進させただけでなく、基金会にとっても安定した財務モデルとなった。
現在、基金会が1年にサポートする家事管理員は年に2000人余り(北部地区が半数を占める)、給与は合計9億元を超える。1人の平均月収は約2万8000元(北部は平均3万2000元)、家事管理員は40〜50歳が中心で、多くが中・高卒者だ。また半数近くが家計の担い手、或いはシングルマザーだ。
いわば弱者の立場にある女性たちだが、基金会による選考と養成は極めて厳格なことで知られている。
基金会の事務局長である王慧珠さんはこう説明する。家庭管理員養成の主旨は女性の自立をサポートすることだが、ユーザーにとって最も大切なのはサービスの質である。したがって弱者であることは言い訳にならず、最初から現実に直面させる必要がある。つまり自分の条件を直視し、不要な期待は抱かぬようにさせること。こうしてこそ「限られた資源を『適切な人』に使える」というのだ。
では「適切な人」とは、どう選ばれるのだろうか。
まず説明会では、授業方法や勤務規定などのほかに、以下のことが強調される。家事サービスでは夕食準備へのニーズが高く、そのため食事準備は必須技能であり、夜7〜8時までの勤務が基本条件である。また訓練期間は遅刻も早退も許されない。時間や規則の厳守を重視するからだ。体力不足や、健康上問題がある人はまず治療や静養に努め、健康な状態で参加することが望ましい。
ここまで説明を受け、自分に合わないと思った人は去る。残った人は申請資料に記入し、さらに重要な、指導員との一対一の面談が待っている。面談では、口を開くと同時に涙をはらはらとこぼし、これまでの苦しみや今後の不安を訴える人もいれば、清掃に従事することにまだ躊躇する人、説明でわからなかったことを質問する人などがいる。面談を通じて指導員は、彼女らの疑問に答えながら自信を持たせ、励ましを与える。
訓練では技能だけでなく、実習を通して人柄を見極める。「家事サービスは私的領域に入るので自己を律した態度と細やかさが最も大切です」とベテラン指導員の趙翠君さんは言う。
女性が女性をサポートする。全国の2000人の女性が彭婉如基金会の協力のもとで失業の不安を抜け出し、賃金も保障された家事管理員となった。同時に7000の家庭が専門性の高い家事サービスを受けている。写真は基金会の顧客サービス担当者。