チョウ保全の基地——剣南蝶園
チョウとその生息地保全のためには、長期的な努力が必要だ。台湾の民間機構「台湾胡蝶保育学会」(以下「蝶会」)は2003年から「剣南路胡蝶歩道」のチョウ生息地の保全を推進している。かつて台風で破壊された環境をボランティアが整理して植皮を再生し、現在、園内では160種のチョウが観察できるようになった。台湾では指標となるチョウの生態教育パークである。
この日、蝶会理事長の張栄華は、この都市部にあるオープンな蝶園を案内してくれた。蝶会のボランティアはチョウの幼虫と成虫のために、園内に原生種の寄主植物や蜜源植物を植え、チョウが餌を奪い合うのを避けるため、適度に植物を分布させている。餌となる新しい食草を植えるたびに、ボランティアは定期的にチョウの行動を記録し、それぞれの食草がどれだけチョウを引き寄せるかを観察している。
蝶園内では、一定の距離ごとにチョウの行動を観察できる。入口付近にあるアカミズキの木にはヤエヤマイチモンジの幼虫が、天敵に襲われないよう糞で偽装物を作っているのが見られる。また、シロチョウ科の異色尖粉蝶(Appias lyncida eleonora)は、ギョボクの周りをずっと飛んでいてなかなか停まろうとしないが、それは産卵にふさわしい場所を探しているからだ。バナナの木の葉が螺旋状に巻いているのは、外来種のバナナセセリの幼虫の家だ。
斜面ではチョウが盛んに飛んでいる。「チョウは変温動物で、気温が高いほど速く飛びます」と張栄華は言う。目の前をさっと飛び去るオナシアゲハは都会でもよく見られる品種だ。同じく標高の低い地域で活動するウスキシロチョウは、高雄美濃の「黄蝶翠谷」の主役である。上を見上げると、ヒョウ柄の白裳貓蛺蝶(Timelaea albescens formosana)が木に止まって、羽を広げたり閉じたりしながら休んでいる。
「以前、オーストラリアから来た女性は、一ヶ所でこれほど多くのチョウが見られる台湾は幸せだと言いました」と張栄華は言う。実際、オーストラリアの面積は台湾の215倍だが、台湾にはオーストラリアと同様、400種を超えるチョウがいるのである。
こうした生息地の保護の他、蝶会では園内の各種設置を通して市民がチョウの生態を理解できるようにしている。例えば、樹冠観察エリアでは、トレイルの階段から見下ろすと木々の上部が見え、チョウが樹冠の花の蜜を吸っているのが観察できる。また、張栄華は休憩エリアの前にある大樹を指さしてこう話す。「これは宝の木、タイワンウオクサギです。多くのチョウがこの木の花の蜜を好んで集まります。しかもその枝葉や花冠は上へ向かって生長するので、観察したり写真を撮ったりするのに便利です」
完全変態をするチョウ。幼虫と成虫の姿はまったく異なる。