私たちは急ぎすぎていないだろうか。
確かに急ぎすぎである。ちょっとした楽しい時間や小さな幸せを得るために押し合いへし合いし、急ぎすぎて夢を見る時間を圧縮し、忙しすぎて志さえ速成で成し遂げようとする。誰もが一分一秒を争い、常に前へと突き進み、追いかけ、追い越し、無暗に流されていく。そうして、考えたり、観賞したり、耳を傾けたり、読んだり、思いやったり、心を開いて語り合ったりする時間を失い、一人で静かにこの世界と向き合う時間を失っている。
世界は急ぎすぎ、心も忙しすぎる。暮らしをスローダウンし、時には立ち止まり、違う速度̶̶スローを練習してみてはどうだろう。スローであることは素敵なことだ。ゆっくりと、力を抜くこと。これこそ失速の時代に心身をいやす特効薬ではないだろうか。
今月号でご紹介する宝島フォルモサの花蓮県鳳林、苗栗県南庄、嘉義県大林、苗栗県三義の町を歩けば、そこここに季節を感じ、小さな通りののんびりとしたリズムを楽しみ、青い空と緑の大地、陽光とそよ風を感じることができる。そしてシンプルに、「生活」「活きること」「生命」の存在を満喫できる。
これらのスローシティは、何も語らず、ただ透明な静けさを湛えている。これらのスローシティは故意に自由を装うのではなく、あるがままの日常生活の中に詩を感じさせるひと時を備えている。目的を持たない一人の旅人として、このようなスローで優雅な日常の旅の体験は驚きと感動に満ち、それこそ形容も比喩もできない「スロー」に身を浸すことができるのである。
今月号のサンフランシスコからの海外リポートでは、アジア美術館における故宮博物院特別展をご覧いただく。故宮の国宝が再び海を渡り、素晴らしい博物館外交が実現し、中華の文物に世界の目が注がれる。もう一つの海外リポートではシリコンバレーにおけるスタートアップ企業の物語をご紹介する。異郷で懸命に夢を追う彼らのビジョンがこれからの世界を変えていく。
暮らしに欠かせない「開門七件事」のシリーズでは、今月は「食用油」を特集する。粗悪な食用油が流通するという事件を経て、昔ながらの製法で作られた新鮮で身体に良い食用油が再び注目されるようになった。「東南アジアからの風」シリーズでは、インドネシアから台湾に嫁いできた3人の女性の物語をお読みいただきたい。台湾伝統の人形芝居「布袋戯」の人形遣い、金鐘賞受賞女優、テレビ・ラジオで活躍するパーソナリティの3人は、それぞれの世界で活躍し輝いている。海外から嫁いできた新住民の模範であり、その人生は称賛に値する。
スローシティを旅すれば、そこは香気漂う桃源郷、豊穣の天国、広大な宇宙であることに気付かされる。スローであること、それは人生という旅の新たな哲学なのである。