産業クラスターをつなぐ人情
何恵貞と詹怡鈴は、台中の靴メーカーで働いていた。材料メーカーやOEM顧客と連絡を取ったり、型紙作りから、縫製、底付け、仕上げなどすべてをこなして靴製造の技術や知識を身につけた。その工場が閉鎖され、2014年にハンドメイドの靴を売る「藍尼手工鞋」を立ち上げた。デザインと販売をそれぞれ担当し、ベテラン製靴職人に頼んで靴を完成させた。そして「美術園道」商店街の事務局長、陳韻涵の紹介によって、革製品ブランド「森下樹」と共同で五権八街に店舗を構え、品揃え豊富な皮革工房を作った。
一方、「Vingt Six」を創立した張珮は、もとは自分のためにとシフォンでスカート風のバッグを作ったのが始まりだった。それを露天で売るようになり、市場にも出店して、同業の若いデザイナーたちと知り合った。彼らと考えや情報を交換し、共同で工房を借りたり、海外のマーケットにも出店したりした後、2016年末に「C+H」創設者の楊淳淳と楊勻涵の姉妹とともに、デザイナーズブランドの店「女子事務所」を立ち上げた。店内にはVingt Six、C+Hを含め、10の台湾デザイナーズブランドの商品が並ぶ。張珮は「海外ではバッグや帽子を専門に扱う店が多いですが、台湾人の消費習慣に合ったものを売る店なら各種製品をいっしょに扱っても客は足を止めてくれます」と言う。だが、それはもちろん、デザイナー同士の絆に支えられている。
台湾中部は製造業の中心地だ。かつては国際ブランドのOEMが盛んで、皮革、繊維、金属加工工場が林立し、外貨を稼いだ。今では多くが海外移転してしまったが、わずかに残る工場は今でも廉価で質の良い製品を多種作っている。それを材料とするので若い起業家はコストを抑えられ、しかもそこからデザインの発想を得る。また、腕の良いベテラン職人も貴重な資産だ。現代的なセンスと伝統技術を結び付けることで優れた製品が生まれるだけでなく、工芸技術も継承される。彼らが協力して生み出した靴や服を見ていると、製造業の黄金時代が戻ってきたかのようだ。

何惠貞は製靴技術の継承を己の使命とし、ブランド運営の他にハンドメイドシューズによる起業講座なども開き、シューズメーカーとともに技術継承の可能性を探っている。