変化のきっかけに
主催者が伝えたい情報を伝えるだけでなく、広く意見を募って人々の思考と議論を巻き起こすことこそ、多くのキュレーターの目的である。
白夜祭で劉真蓉と出会った台湾電力は、台湾のインフラの中心的存在である。この歴史ある企業は最近、古いダムや発電所の資料を整理し、これらを用いて国民とコミュニケーションを取る計画を-l序規画設計に依頼した。
劉真蓉のチームはすぐに研究に取りかかった。資料を整理すると、台湾の電力供給は最初は水力発電に頼っていたことがわかった。水力発電は、地形を利用したもので、大地から得る電力とも言える。
そこで「電力大地——台湾電力文化遺産保存特別展」を開催し、1919年の古い地図から物語を始めることとした。当時、日本人は台湾の山や河川などの地形を調査して、その後の50年にわたる発電所を計画した。河川や山に沿って設置された電力供給システムは、台湾近代化の象徴でもある。現在では水力発電が占める割合はごくわずかだ。しかし「台湾電力文化資料展を通して、台湾の電力の将来について議論することができます。これは電力会社が社会全体と話し合うべき課題です」と劉真蓉は言う。
王耀邦が先に企画した「時空を超える可能性」展覧会を見てみよう。これは、放置されていたかつての基隆市警察局第二分局の建物を利用した展覧会で、空間の改装はせず、内部に大量の植物を持ち込んだ。フラワーデザイナーに装飾を依頼し、詩人に基隆の詩を書いてもらった。雨の多い基隆の気候のため、会場内の植物はぐんぐん伸びていき、台北からも多くの人が訪れて変化していく空間を楽しんだ。
王耀邦は「『改装』だけが都市空間再利用の唯一の道なのか」と問いかけた。これを通して、多くの人に、放置された空間の再利用について考えてもらいたいと思ったのである。こうして公共性に関するイメージがふくらむことは、キュレーションによる変化の一つかも知れない。
2019年春、クリエイティブ・エキスポが始まろうとしている。この仕事を引き受けた劉真蓉は、華山文創パーク、圓山争艶館、松煙文創パーク、台湾当代文化実験場C-LAB、さらに台北機廠にまで会場を広げる。遊び心を忘れない彼女は、「Culture on the move」をテーマに打ち出し、伝統と現代のパフォーマンスアートを対比させる。絶え間なく上演が続き、文化の変化は止まることがない。文化の動態実験をぜひ楽しみにしたいところである。
一晩だけ行なわれる「神嬉舞夜」は、古民家に光と影、電子音楽などを組み合わせたイベント。現代のデザインと民間信仰がクロスオーバーした都市の祭典だ。
台湾の将来のエネルギーについて考えさせる「電力大地——台湾電力文化遺産保存特別展」。
劉真蓉はキュレーションを通して地域に深く入り込み、あらためて自分の文化を知ることとなる。(林格立撮影)
衍序規画設計は2018年の桃園農業博覧会で「グリーン・ハウス」を演出した。温室を用いて未来の生活や家へのイメージがふくらむ。
「UP TO 3742|台湾の稜線」はテクノロジーを用いて台湾の壮麗な高山を会場に取り入れ、見学者に新たな体験をもたらす試みである。(格式設計展策提供、汪徳範撮影)