親に頼りきる若者
日本でニート、あるいは「引きこもり」(台湾では「家をつくばう廃材」「引篭青年」などと訳す)と呼ばれる若者は、中国では「漂一族」「すねかじり族」と呼ばれ、アメリカでは「ブーメラン・キッズ」と呼ばれる。一般に16歳で自立するアメリカの青年にとって、これは恥ずかしいレッテルである。香港では学校にも仕事にも行かない若者を「双失青年」や「隠蔽青年」と言い、台湾では「溺拖;族」「溺途族」などと呼ぶ。
同年齢の失業者(求職しているのに仕事が見つからない人)に比べ、一般にニートの家庭は恵まれていて、本人の学歴も高く世故に長けているが、成熟しているとは限らない。支出は子供を溺愛する親が負担し、習い事をする余裕もある。大部分は働く能力はあるのだが、親に頼っていても何の不自由もなく暮らせるので、そのまま楽な道を選んでしまう。これは親も予想しなかったことだ。
国によって異なる事情
多くの国でニートが増えているが、その原因は国によって違う。アメリカの場合は社会的・経済的条件の変化、日本では心理的・文化的要素があるとされる。冒頭のドキュメンタリーで、レポーターが鈴木さんに「なぜ出かけないのか」と問うと、いつも背後に嫌な視線を感じるからだと答える。他人は常に陰で批判的なことを言うので、しだいに人付き合いが嫌になり、家にいれば安心だからと言う。
華人圏でも同様の現象が起きている。外出せずに家にこもり、ネットやゲームで遊ぶか寝るかで、何もしない。何もしていないことに劣等感を抱いているが、何にも興味を持てないので、ついには「引きこもり」になってしまう。だが、長期の引きこもりは若者に限ったことではなく、中高年にもある。
香港キリスト教サービス処のサイトでは「引きこもり」を次のように定義している。連続3ヶ月以上、仕事・学校・友人・コミュニティなど外部との系統だったつながりがなく、さらに深刻な場合は、外部だけでなく、内部(家庭内)とのつながりもない。
このサイトよると彼らは人との付き合い方がわからず、簡単な挨拶も他の人から見るとおかしな行為に見える。また、学生やサラリーマンなど、社会が認めるポジションがないため、それが長く続くと、しだいに人間関係や生活の方向や働く動機を失い、生きる動力さえ失ってしまう。日本のニートと違うのは、香港の「引きこもり」は学歴や技術や動機が低い点だ。
「僕は内向的で恥ずかしがりやで、反応もいつも一歩遅いのです。以前働いていた時はそのためにいろいろと辛い目に遭ったので、今は失敗が恐くて求職する気になれません。考えすぎかもしれませんが、本当に恐いんです。将来、自分は廃人になってしまうに決まっています。頑張りたいという気持ちはありますが・・・とてもできそうもありません」これは、アランという青年がブログに書いている文章だ。
さまざまな改善方法
なぜ多くの若者がニートになるのだろう。ニートは一種の病気なのだろうか。この状態を抜け出すにはどうすればいいのだろう。こうした疑問は、自分には何のおかしいところもないと考える多くのニートにとっては意味がない。ドキュメンタリーフィルムの後半で、レポーターはニートの子供を持つ親たちにインタビューするが、誰もが異口同音に「どうしてこんなふうになったのか分からない」と言う。日本の家庭にとって、家にニートの青年がいるというのは非常に気まずいことのようで、大部分の家庭はなるべく余所には知られないよう隠そうとする。最近は、マスコミもニートについて関心を寄せるようになったが、親たちは一層恥ずかしく感じるようになり、かえって外部にサポートを求める時機を逸してしまう。
だが対策は必要だ。「治療」という点では、日本の観点と西洋の観点に分けられる。一般に日本の学者は、平常心で対応し、あまりプレッシャーをかけず、本人が十分に考えて殻から抜け出し、社会に復帰するのを待つべきだとする。一方、西洋の医師は、状況が悪化するのを放置するべきではなく、コミュニティに加わるよう能動的に働きかけ、時には強要することも必要だとしている。
ここ数年、日本では引きこもりを支援する活動が盛んになっている。正規の心理・精神医療のほかに、全国に16のサポートセンターが設置され、こうした若者が親元を離れて共同生活をすることで自立と人間関係を学べるようにしている。これによって、彼らは引きこもっているのが自分だけでなく、孤独ではないことを知り、親も子離れを学ぶこととなる。この方法は確かに有効であることを事実が証明している。
「あなたが社会と向き合わなければ、社会もあなたと向き合おうとはしない」と、台湾の映画監督・楊徳昌(エドワード・ヤン)は若者の心を描いた「独立時代」の受賞後に語った。青年の成熟には二つの面がある。一つは「生理的成熟」、もう一つは「社会的成熟」で、社会的成熟こそが、その人が大人かどうかを決める主たる指標となる。若者たちは、自分は一時的に立ち止まって「自立の芽生え」を探しているだけだと言うかもしれない。しかし、どのような生き方を選ぶにしても、ボールは自分の手の中にある。それを勇気をもって相手に投げ、返ってくるボールを受け止めてこそ、悔いのない人生が送れるのである。
自立しない若者たち
フリーター:英語のフリーとドイツ語のアルバイターを合わせた造語。正社員にならずアルバイトだけする若者。現在、日本では社会に出る若者の3人に1人がフリーターの道を選んでいる。
ニート:日本の厚生労働省の定義では「15〜34歳、学校を卒業し、無業で未婚、家事も通学もしていない者」。
引きこもり:英語のsocial withdrawal(社会的引きこもり)からの訳。本来は精神科用語で、精神障害などにより長期的に社会活動と対人関係から離れ、内向的になった状態を指す。
ブーメラン・キッズ:家を出て自立した後、社会に適応できずに親元に戻り、親の世話を受けて生活する若者。
パラサイト・シングル:成人しても親元に暮らし、家賃や生活費は親に依存し、自分の収入の多くは海外旅行やブランド品などに使う。
双失青年:香港で、3ヶ月以上就学も就労もしていない若者を指す。
コクーン(繭):1990年、パリのヨット広告に「世界の頂点でコクーン生活を楽しむ」という表現が使われた。外界を複雑で険悪なものととらえ、家が現代人の避難の場となる。コクーンは二つに分けられ、思春期に学校や外界を恐れて引きこもるタイプと、交際や職場闘争に時間を浪費したくないために家でSOHOとして働くタイプがいる。
オタク:日本の評論家・中森明夫が1983年に使い始めた。一般にアニメや漫画、ゲームなどに熱中する人を指す。現在はより広い意味で使われるようになり、オタクであることを誇る人もいる。現在の日本では、趣味に熱中する人や職業領域でのエキスパートを指すこともある。
整理:黄亜琪;