着実に夢を実現する
しかし、民間業者の見方は違う。旅行会社の呉西謙社長によると、観光局は大金を投じて地方自治体が行なう観光フェスティバルをサポートしているが、実施から2年、成功しているものは数えるほどしかなく、大部分は単なる地方のお祭りに過ぎないと言う。「旅行会社がツアーを組めるかどうかで、イベントの成否が判断できます」と言う。
旅行会社が結成した環島鉄道旅行聯営センターの田治成・執行長も感じるところがあり、台湾の観光産業が直面している多くの問題は非常に本質的なものだという。例えば、企業経営者は先を争うようにして各地にテーマパークを設けているが、ハード設備には資金を投じても、国際的な視野がないために特色を打ち出せず、外国人観光客にとって魅力的なものとはならない。また、大規模な開発プロジェクトでは主管機関が多すぎ、一つのリゾートの建設のために文書が数百もの担当者の間を行き来することになり、投資意欲も削がれてしまうと言う。
このように意見は多いものの、観光客倍増計画に対する大方の見方は楽観的だ。「少なくとも、すでにスタートしたのですから」と戴鎂珍さんは言う。
SARSの流行が収まり、2ヶ月間暇をもてあましていた麦良材さんも再び忙しくなった。ここ10年、台湾の観光産業はミサイル危機、台湾大地震、ニューヨークの同時多発テロ、そしてSARSとさまざまな衝撃に直面してきた。
「以前はツアー客を連れて観光地を巡るたびに、ごちゃごちゃした景観が嫌で堪りませんでした。それが今では、大地震で倒壊した日月潭の古い建築物も美しく蘇ったのです」麦良材さんが去年、ツアーを率いて日月潭へ行くと、湖畔の慈恩塔や玄奘寺が靄の中に浮かび、観光客が賛嘆の声を上げた。ガイドをしてきて20年、彼は「初めて自分の土地を誇りに思いました」と言う。
苦しかった時代に台湾で育った人なら、テレビに映し出される遥か遠い国の美しい景色を見て「あそこで暮らしたい」と思うかもしれない。しかし麦良材さんは、心の中に台湾の未来の光景を描いている。自然に触れる旅が活発になって環境保護の観念が根付き、植物や昆虫も大切に保護される。鉄道の旅で沿線の文化は復興し、衰退しつつあった鉄道輸送も生まれ変わる。各地の劇場では京劇や歌仔戯、原住民の舞踊などが披露され、外国人の友人たちが台湾の多様で質の高い文化を伝え広めてくれる。このような理想的な生活も手の届かないものではない。
観光産業が国全体の建設を促すというのは夢のような話だが、すでに多くの人がその夢の実現に向って歩き始めているのである。