3ヶ月にわたる折衝の末、我が国の漁船「広大興28号」がフィリピン公船に銃撃され、乗組員の洪石成さんが死亡した事件に関し、我が国とフィリピン両国の司法調査報告が出された。
フィリピンの対台湾窓口機関であるマニラ経済文化弁事処のアマデオ・ペレス理事長は、フィリピンのベニグノ・アキノ大統領の特使として被害者の遺族に正式に謝罪し、事件は幕を閉じた。
我が国の行政院の江宜樺・院長(首相に相当)は8月9日、それまでフィリピンに対して発動していた11項目の制裁措置を解除すると宣言し、馬英九総統はフェイスブックで次のような談話を発表した。フィリピンとの交渉で我が国は理性的な態度で立場を堅持し続け、強硬な措置を採った。フィリピンに対する我が国からの4項目の厳正な要求には、すべて具体的かつ前向きな回答が得られ、政府は洪家の遺族への約束を果たすことができた、と。
関係者の処罰と賠償
刑事司法互助協定に基づく協力によって、両国の司法部門は7日、それぞれの調査結果を発表した。
数々の証拠から、台湾の屏東地方検察署は次のように認定した。事件当日、フィリピンの沿岸警備隊指揮官は隊員に対し、広大興28号を追跡し、30口径の機関銃とM14およびM16自動小銃で銃撃するよう命じた。その時間は75分に達し、発射した108発の銃弾のうち45発が広大興28号の船体に命中し、洪石成さんを死に至らしめた。この行為は我が国刑法の殺人罪に当る。
一方のフィリピンの調査報告は、関係者を「殺人罪」で起訴すべきであり、また現場で撮影されたビデオ画像を改竄した沿岸警備隊員を「司法公正妨害罪」で起訴すべきであると同国検察当局に建言するものだった。我が国法務部の陳明堂・政務次官は、フィリピン側の調査結果と起訴の建議は、我が国の認定と「ほぼ一致する」と述べた。フィリピンの刑法248条の「殺人罪」が適用された場合、最長20年の有期懲役が科される。
マニラ経済文化弁事処のアマデオ・ペレス理事長は、フィリピンのベニグノ・アキノ大統領の特使として同大統領の公開書簡を携えて来訪し、被害者である洪石成さんの遺族に対し「大統領およびフィリピン国民の深い遺憾と謝罪の意」(deep regret and apology)を伝え、今後の漁業紛争においては二度と武力を用いないこと、そして法により犯人を処罰することを約束した。
双方の弁護士は、すでに賠償についても合意に達している。台湾の漁業者はこれまでも長年にわたって銃撃や脅迫などの被害に遭ってきたが、死亡と精神的損害、漁船の破損などに対して賠償を得るのは今回が初めてである。
「政府は洪石成さんの死に報いるために最大限の努力をし、我が国の立場と尊厳を守り、国際社会の支持を得て、フィリピン政府にこの事件の責任を負うよう幾度も呼びかけてきた。また我が国の国民は、台湾で生活するフィリピン人に理性的かつ友好的に対応した」と林永楽・外交部長(外相)は述べた。また、先頃、我が国の海岸巡防署の艦艇「偉星号」が、我が国の南方海域でフィリピン人漁業者3名を救助し、迅速に送還したことが人道的救援の精神を示すこととなり、こうした行為がフィリピン政府の前向きな対応を促したと述べた。
漁業および経済貿易協議の再開
フィリピンは台湾にとって7番目に大きな輸出相手国である。広大興号事件が幕を閉じたことで、3ヶ月に渡って凍結してきたフィリピン人労働者の台湾での就労申請(約1万4000人が影響を受けた)が再開されることとなった。また、この間に台湾ではフィリピンへの渡航延期勧告が出されており、今年上半期、フィリピンからの来訪者は8.7%減少、我が国からの渡航者は25%(2万7000人)減少した。これによる両国の観光損失は15億台湾ドルに上ると見られる。これらの経済制裁が解除されたことで、両国間の経済関係も回復へ向うこととなる。
今回、我が国外交部とフィリピンのアマデオ・ペレス特使は四項目の合意に達した。海上での法執行において武力と暴力を行使しないという制度を強化することの他に、今回の事件の早急な起訴と犯人の処罰を求め、次の漁業協議と経済協力制度化に向けた協議を推進することとなった。
今後は両国の漁業および経済協力の制度化交渉が重点になる。理性的かつ平和的な手段で争議を解決できたからこそ、相互の実質的な協力と交流を深めることができるのである。