台湾にもベトナムの味
陳玉水さんは母親譲りの料理上手で、新住民の間でも有名だ。在学している師範大学の近くで、かつて姉とともに弁当を売っていた。昼食時には100個の弁当がたちまち完売する毎日で、二人はやがて飲食店を開こうと思うようになった。
1年の準備を経て昨年4月に台北万大路に姉妹でベトナム料理店「越好吃」を開いた。ベトナム料理店に対する人々のイメージを一新しようと、店内を清潔で心地良く整えた。ベトナムらしさをかもし出すため、赤レンガ模様の壁紙を貼り、ベトナムで買い付けた油絵を飾った。一枚は、雨後の霧が立ち込める昔のベトナムの風景で、もう一枚はホーチミン市の代表的スポット、ベンタイン市場の様子だ。フランス植民地時代の建物に、アオザイに笠という出で立ちの女性や、ベトナムの春節を飾るソシンロウバイの花などが描かれ、おめでたいムードにあふれる。
インテリアのあちこちに、陳玉水さんの気配りが感じられる。ベトナムの古都ホイアンの工芸品である色鮮やかなランタンや、絵が施されたベトナムの笠、故郷名物のランブータン、春節の飾りには欠かせない梅や桃の花など、ベトナム各地のムードを演出している。台湾在住のベトナム人にとっては、なつかしい故郷にもどったような感じになり、台湾人客にとっては異国情緒にあふれた空間になっている。
現在、台湾師範大学の学部と大学院で学ぶ陳玉水さんは、学生、教師、妻、母親、通訳、ボランティア、ラジオ・パーソナリティと、さまざまな顔を持つ。そんな忙しさの中で、なおも法律用語を毎日1〜2語は整理することを続けている。なぜなら彼女は「こうした行為は毎日少しずつでも積み重ねることで、何もしないよりはずっといい」と考えるからだ。
「そんなに多くのことを、どうしてそんなに余裕でやり遂げられるのか」と不思議に思って尋ねてみると、彼女は笑いながらこう答えた。「忙しい人ほど時間の配分が上手になるものですよ」と。厨房との間を忙しく出入りする陳玉水さんは笑顔を絶やさず、自信にあふれていた。
陳玉水さんは、食文化や講演、教育などを通してベトナム文化を伝え、台湾との友好の懸け橋となっている。(陳玉水提供)
陳玉水さんのレストランではベトナムの家庭料理を出している。写真はニガウリの肉詰めのスープ。ニガウリの芯にひき肉を詰め、春雨やキクラゲと一緒に煮て、ベトナム胡椒を利かせたスープで、「苦去りて楽来たる」の意味を込めてベトナムでは正月に出される。
異国情緒にあふれたレストラン「越好吃」。多くの人の来店を待っている。