厳しいスタッフ教育
2000年までは台湾を訪れる観光客は年わずか230万人、現在の730万人の3分の1にも満たなかった。そのうえ空港設備も老朽化して買物に快適な環境とは言えず、台湾人でさえ外国のきれいな免税店で買うことを選ぶような状況だった。「空港免税店の店員も愛想がなく、商品について尋ねても答えられない。これでは客は呼べません」と江建廷は言う。
こうした状況で、ついにはエバーグリーンも赤字続きに辟易し、資金を引き揚げてしまう。
だが、台湾の観光業の将来性を見越していた江松樺はあきらめず、ブランドショップの経営方式を導入することにした。巨額を投じ、店舗とスタッフの改造に乗り出したのである。かつて「雑貨店」と呼ばれた空港免税店を明るく豪華な装いに変え、販売員にもキャビンアテンダントのようなおしゃれな制服を着せ、笑顔で親切な接客をさせる。こうして免税店での買物が旅の楽しみの一つとなるよう心をくだいた。
スタッフは必ず一定時間数の販売訓練を受け、厳しい試験を経てやっと販売の第一線に立てる。カナダのブリティッシュコロンビア大学で経済学を学んだ江建廷だが、昇恒昌での最初の仕事は酒タバコの販売員だった。副社長になった今でも、シングルモルトやブレンデッドウィスキー、キューバ産葉巻について、すらすらと説明できるという。
また、販売員は各国空港の規定に通じていなければならない、と江建廷は言う。酒類を持ち込んではいけない国に行く旅客に酒を売ってしまうと、セキュリティチェックで引っかかって没収、或いは入国を拒否されてしまうこともあるからだ。
「昇恒昌で働いた経験を持つと、ほかのサービス業でも歓迎されます。スタッフには一定レベルの訓練をしていますから、さまざまなトラブルにも対処できるのです」と江建廷は胸を張る。
台北市内湖にある昇恒昌の旗艦店は華やかで広々としており、有名ブランドがすべて揃っている。さらに台湾の特色を打ち出した特産品なども揃え、外国人観光客が必ず訪れるショッピングセンターとなっている。