悲しみの原住民部落
台東県知本地区では原住民が人口の4割を占める。建和地区の原住民は2000人ほどで、親の失業や飲酒、父親の暴力、母親の家出など、数々の問題を抱えている。
建和地区にある知本中学が2008年に生徒の家庭を調査したところ、一人親家庭や、両親が不在で祖父母と孫だけの家庭の割合は72.4%に達した。
「書屋の任務は、逆境にある子供たちに、親とは違う人生を歩んでもらうことです」と陳俊朗は言う。地域の弱者家庭の子供は、長年にわたってさまざまな補助を受けているため、しだいに競争力を失い、「夢」まで弱化してしまったと言う。
「原住民の生徒には、学費補助と成績加点(25-35%)という優遇措置がありますが、社会に出れば何の優遇もありません。補助を受けるのに慣れてしまうと、子供たちは挫折し、親と同じ道を歩んでしまいます」
「書屋が与えるのはセカンドチャンスです」台北富邦ホールディングスに勤務した経験があり、今は書屋の幹部を務める鄭賀元(阿元)は、この僻遠のリゾート地に遊びに来て以来、思いがけず、ここに2年も住むことになった。その原因は、部落の需要を目にしたことだ。
「食事はしたか?」と、阿元は書屋に入ってくる生徒に必ず聞く。返ってくるのは、しばしば沈黙である。そこで書屋では毎日夕食を用意し、家に帰っても夕食がない子供たちに、一晩中ひもじい思いをさせないようにしている。
「ここの子供たちの多くは、空腹を満たすことさえできないのですから、勉強どころではありません」と阿元は言う。昨年、基礎学力試験を受ける中3の女子生徒を教えたところ、試験の半年前に、彼女たちは小学3年で習う除法さえ十分にできないことがわかった。
生徒たちを尊重して「寄り添う」ことで、彼らはしだいに陳お父さんと阿元を認めるようになり、困った時には相談に来るようになった。ラブレターの添削を頼まれることもある。
陳俊朗によると、この地域の子供が直面している問題は、学費と感情と学業の三つだ。
学費の問題は、部落の子供たちの最大の悩みだ。これは都会の恵まれた子供たちには想像できないことかも知れない。原住民子女の給食代は県が補助し、保険も無料だが、多くの親は「教育は政府がすること」と考えており、お金があれば他のことに使ってしまう。その結果、子供たちは学校から学費を催促されることとなる。
陳お父さん(前列左)は「自転車で花蓮まで挑戦」に参加した子供たちのために焼き肉パーティを開いた。大喜びの子供たちは、来年はきっと「自転車で中央山脈横断」を成し遂げようと誓いあった。