旧正月にiNDIEVOXは台北郊外の木柵から都心の仁愛路に移転した。今年会社は大きな変革を迎えるからである。開放的なオフィスでは24人が働いている。従業員はファッショナブルで個性的、呉柏蒼はロックスターらしい雰囲気を漂わせる。

iNDIEVOXは2008年3月に設立された。当時世界の音楽業界は、CD販売からダウンロードへの移行期を経て、レコード会社はMP3を主流とする現実を受け入れ始め、消費者も次第に料金を支払ってダウンロードするようになっていた。この頃、台湾最大の音楽ダウンロードサイトKKBOXは印税支払問題を少しずつ解決し始め、アップルのiTunesも発売され、iNDIEVOXは先見の明をもって登場した。

iNDIEVOXは台湾で最も重要なインディーズ･コンサートのチケット販売サイトでもある（左）。右はこのサイトで自分のライブへの来場を呼びかけるアーティストの柯泯薫。

iNDIEVOXでは、あらゆるインディーズミュージシャンが登録でき、曲をアップして販売できる。料金は創作者が自分で決め、期限付き無料ダウンロードも設定できる。

このシステムはインディーズに大きな市場を開き、2013年4月時点でiNDIEVOXには8万曲がアップされた。サイトのコンテンツは大手レコード会社の作品を提供するKKBOXやiTunesとは全く異なるため、価格競争に陥ることもない。

「インディーズ市場が活性化すればiNDIEVOXのビジネスチャンスも広がります」と呉柏蒼は言う。現在、サイトにアカウントを持つバンドやミュージシャンは4600、活発に活動している者だけで400を超え、インディーズブームに貢献している。

iNDIEVOXのホームページを開くと、数々の新鮮なジャケットとミュージシャンの顔が並び、クリックすればほとんど楽曲を無料で試聴できる。一日中ここにいても飽きることはなく、このサイトを通して台湾音楽の多様性に触れられる。

ステージでの呉柏蒼は魅力あふれるロックミュージシャン、ステージを下りれば情熱的な起業家である。

iNDIEVOXの人気の理由を知るには、呉柏蒼という人を知る必要がある。

呉柏蒼は1978年生まれ、清華大学電機工学科卒業。学生時代に同級生の慕春佑らとバンド「回声」を結成し、その後ニューヨーク大学情報科学大学院に留学したが、音楽の夢をあきらめられず、家族の反対を押し切って帰国し、2002年にアルバム『感官駕馭』でデビューした。

当時は世界的にレコード産業が下り坂にあり、台湾のインディーズも成熟していなかったため、呉柏蒼はサイト制作の仕事を受けながらバンドを続け、音楽創作と聴取者の接触の重要性に気付いた。

サイトデザインも一種の創作で、分かりやすくなければユーザーは読んでくれないが、音楽創作も同じで、聴取者とのコミュニケーションがなければ受け入れられないと呉柏蒼は考える。「創作者と聴衆をいかにつなげるか」が呉柏蒼の課題だった。

彼は音楽界での人脈を活かして500万元を集めた。そして、台湾の音楽ダウンロードサイトが商業化の最終段階に入った2007年、iNDIEVOXは準備に入り、同年に2枚目のアルバム『巴士底之日』を発表すると、台湾に再び音楽創作ブームが起きた。

2009年は豊作の一年だった。iNDIEVOXは利益を出し始め、翌年、回声は3枚目のアルバム『処女空気』をリリース、金曲賞最優秀バンド賞にノミネートされる。

黒市音楽公司の創設者で椰子バンドのギタリストでもある韓立康は、回声はインディーズミュージシャンにとってまさにスーパースターで、利己的なところがなく、音楽を志す若者に聴衆と触れる道を開いていると語る。

呉柏蒼が率いるスタッフは、優れたネット技術を持つとともに、音楽への情熱も抱いている。

2010年末、StreetVoiceサイトを運営し、シンプルライフフェスを開く中子文化公司がiNDIEVOXに出資して呉柏蒼を同社の副総経理に招き、インディーズ市場の拡大に力を注ぐこととなった。

最初の仕事は、iNDIEVOXとStreetVoiceで重複する業務を統合することだった。iNDIEVOXはブログ機能を削除してダウンロード機能に徹し、一方のStreetVoiceは営利事業は行なわない単純な交流の場とし、両社のオフィスも一緒にした。

2012年、iNDIEVOXの年間売上は3000万近くに達し、多くのインディーズバンドが育った。「八三夭楽団」や「那我懂;你;的意思了」などのバンドがブレイクし、コンサートも大成功した。

方針の調整により2013年第一四半期の利益は前年同期比で50％成長、年間では2倍になる見込みだ。

iNDIEVOXの収益源は、ダウンロード、コンサートチケット売上、大型音楽イベントの三つである。

ダウンロード分野の伸びが期待でき、現在は中央研究院と共同で「音楽発見」機能を強化している。これはユーザーが楽曲を購入すると「音楽発見」プログラムがリズムやトーンの類似する曲を検索して試聴を勧めるというシステムだ。サイトでは24時間にわたってオンラインラジオ番組も聴ける。

チケット販売の分野では、台湾各地のライブハウスや大型コンサートの入場券を販売するほか、台湾最大のインディーズ･ライブハウスLegacy Taipeiのチケットはスマホでも予約できる。

大型イベントとしては、StreetVoiceの広がりを利用して2012年からライブ番組を制作し始めた。すでに人気バンドのライブを40以上収録しており、4月からCATVで「見証大団」として放送を開始した。

呉柏蒼のライブは非常に魅力的で爆発力がある。彼は上着を脱ぎ、ステージに倒れ、観客は大いに盛り上がる。彼にとってはバンドもサイトも起業であり、いずれもロックの夢を綴るものだ。ミュージシャンだからこそ、バンドと聴衆のニーズが分かり、メンバーとの信頼関係が生む創作エネルギーの強さも知っている。

iNDIEVOXは台湾で最も重要なインディーズ･コンサートのチケット販売サイトでもある（左）。右はこのサイトで自分のライブへの来場を呼びかけるアーティストの柯泯薫。

今年の夏、回声は4枚目のアルバムを出す。この十年を振り返って呉柏蒼はこう話す。「高校の時に初めてロックを聞いてすごく感動し、自分の一生をロックに捧げ、音楽を愛する人々に捧げようと決意したんです」と言う。以来、彼はバンドのボーカル、サイトの創設者、企業経営者など多様な役割を果たし、それを楽しんできた。それらはすべて「音楽は多くの人を変えられる」という信仰を中心としてつながっているからだ。

作品「親愛的我」の中で呉柏蒼は、20歳の自分から現在の自分へ語りかけている。「絶望した時は僕を思い出してくれ。美しい幻想で純真な心を永遠に変えないで。さびしい時は僕を懐かしんでくれ。シンプルな信仰で自分に温かい答えを与えよう」

iNDIEVOXは、インディーズは儲からなという客観的現実を打破しただけでなく、あらゆるジャンルの音楽に声を発する活力を与え、人々にインディーズの良さに触れる機会ももたらした。そうあってこそ、起業に意義があり、すべてに価値が生まれるのである。