一杯の郷愁を
客家の女性クリエイターに括られたくはないが、それでも客家出身であるには違いない。
「言葉は文化のコード」であり、言葉は民族の思考方式であり価値認識だと彼女は言う。客家を例にとると、客家語には手や手の動作の形容が特に多い。客家は労働を重んじる民族で、その言語は手の動作を細かく表現するのだという。
羅思容の客家語楽曲には、一度は捨てようとしたが捨て切れない郷愁が込められている。
「郷愁を一杯いかが」と、彼女は笑う。郷愁の味は何かと聞くと、七層塔の玉子酒が永遠の郷愁の味という。
台湾語では九層塔、客家語の七層塔はバジルのことである。遅れて台湾にやってきた客家人は、地味の痩せた丘陵や山地に居住し、その栽培するバジルは花穂の長さが短かった。それに七も九も多数を意味するが、客家語では七の方が発音しやすく音もきれいなので、多くは七層塔という。
物が豊かではなかった時代に、客家の労働者は滋養強壮の効能のある七層塔をよく用いた。「母は疲れると、七層塔を採ってきて、卵二つで七層塔の玉子酒を作り、心身の滋養としていました」というのである。
七層塔の味を一度は忘れかけていたが、自分が結婚し娘を授かると、母が自分の畑の七層塔をもって見舞いに来て、玉子酒を作ってくれた。「飲みながら、口一杯に郷愁が広がる思いで涙が出ました。根源で生と繋がるというのは、こんなに隠れなく直接的だったのです」と言う。
「客家の女性は大変です」と、畑仕事、台所仕事から針仕事に育児までこなさなければならないと羅思容は言う。彼女は2008年に、新竹県関西の北山地域ワークショップに参加し、客家のお婆さんから若い頃の話を聞いた。93歳の老婦人は、盗賊以外は何でもやり何でもできたと「牛馬のように働きました」と話した。
羅思容はそんな客家女性の苦労に報いるレクイエムを書きたいと、「七層塔の味」が生まれた。
「少しずつの感情、つのりゆく思い、口元に残る何か、それは七層塔の味」と羅思容が歌いだすと、そこに込められた郷愁は、七層塔の味のように深く濃い。
羅思容と孤毛頭バンドは小さな国連のようで、彼らが生み出す音楽は実に多様である。