価値の創造、人々との対話
かつて台電は台湾唯一の電力事業者であったが、2012年に起きた石油と電気の価格上昇によって、人々からの信頼を失いかねないほどの大きな試練に直面することになったと徐造華副総経理は語る。そして「当時、董事長になったばかりの黄重球は、就任の際の談話で、より多くの人に台電を知ってもらえるよう情報を公開していこうと呼びかけたんです」と言った。
黄董事長の呼びかけのもと、台電はさまざまな形で市民との対話を試みた。たとえば台湾大学にほど近い温州公園のそばに白と黄色の花をつける加羅林魚木(ギョボクの仲間)があるが、塀で仕切られた台電の敷地の中に植わっているため、地元の人々はそれまで遠くから眺めるしかなかった。けれども、公共アートスペース改善計画が実施され、台電は木の周りを囲む塀を取り払い、その代わりに保護柵を設置することで地元の人々に満開の加羅林魚木を間近で見てもらえるようにした。「私たちは塀を取り払い、地元のみなさんに台電の敷地に入っていただけるようにしました。それによって自然と多くの文化人やアーティストがその場でイベントを行うようになったんです。里長(町内会長)さんは地元の人々の生活をアートと文化で豊かにしてもらおうと、毎年、台電と一緒に魚木フェスティバルというアートカルチャーイベントを行っているんですよ」と徐副総経理は言う。
続く朱文成董事長は就任早々、各営業拠点の倉庫内に保存されている貴重な資料を大切にしてほしいという定年退職したかつての職員・林炳炎からの意見を受けて、文化資産保存計画をスタートさせた。徐副総経理は「台電の電力産業史はまさに台湾経済発展史の縮図であり、その重要性は言うまでもありません」と語り、電力事業の歴史をまとめて台電内に残された文物を精査し、高齢となっている元職員たちに聞き取り調査を行って口述歴史をまとめたが、このように台電の人間に台電の歴史を語ってもらったことで、かえって台電内部の結束も強まったと付け加えた。
台電が所有する全ての文化資産を調べあげた結果、まず竹仔門発電所、旧東西線、濁水渓と大甲渓の流域の水力発電システムという四大テーマで文化史資料を集めることになった。そして2018年に「電力大地(電力の大地)」特別展として、その成果を発表し、百年に渡る電力産業の文化資産を時間軸に沿って展示した。2019年には「川流電湧JUST FLOW」展を行い、百年前この島を照らした光の源を探り、2020年の「島嶼脈動LIGHT UP」展では、200点余りの文化資産を展示した。2022年には国立台湾博物館の要請で「島・電生活」という合同展を行った。それらと同時に『濁水溪:引水成電 川流不息(濁水渓:水を引き電と成し、川は流れてやまず)』、『大甲渓:水電倶楽部』、『傳説:竹門祕境微光往事(伝説:竹門の秘境、微光の往時)』、『古道電塔紀行:舊東西輸電線世紀回眸(古道送電塔紀行:旧東西送電線の世紀を振り返る)』を台湾電力文化資産叢書として出版し、人々に台電のソフトパワーを感じてもらった。
「川流電湧JUST FLOW」展では、美術デザインによって百年に渡る台湾の水力発電の歴史を再現し、台湾の近代化とともにあった台電の役割を紹介した。(台電提供)