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世界中のノートパソコンの3台に1台は、台湾の広達電脳(クアンタ‧コンピュータ)が受託生産していることをご存じの方はいるだろう。テスラの電気自動車を見ると、動力システムの部品の70%は台湾で製造されている。また、世界のダイビングスーツの65%は台湾宜蘭県にある薛長興工業(SHEICO)が製造している。世界ではブランド戦が激化しているが、製造業からスタートした台湾の中小企業は、B2B(Business to Business、企業対企業のビジネス)の世界で重要な一角を占めていることがわかる。高い専門性と、品質とサービスで勝ち抜いてきた台湾の製造業の実力は、私たちの想像を超えている。
台湾では1960年代に経済の転換が始まり、産業の中心が農業から軽工業へと変わり、中小企業をメインとする経済形態が確立した。1980年代には台湾製の傘や靴、自転車、玩具などが世界中に輸出され、台湾は「雨傘王国」「帽子王国」「自転車王国」などと称えられた。そして、今日でも中小企業は台湾経済安定の基盤となっている。『2021年中小企業白書』によると、2020年、台湾の中小企業は154万8835社で、全企業数の98.93%を占め、その雇用者数は931万1000人、全国の雇用の80.94%を占めている。売上は23兆5555億台湾ドルで、全企業の売上の5割を超えており、台湾経済は今も中小企業が支えていると言える。
1990年代に入ると、情報通信産業が従来型産業に取って代わり、TSMCやACER、鴻海など、輸出を中心とした受託生産ブランドが生まれた。一方で、多くの中小企業はイノベーションやコスト削減、競争力向上などの課題に直面する。
ここ数年、多くの専門家は「クロスドメイン‧イノベーション」「循環経済」といった新たな戦略で中小企業の道を示そうとしている。尚宏機械工業(JANDI'S)の黄敏仁総経理も、台湾の製造業は「マニュファクチャリング‧ブランド」を打ち出すべきだと考えており、将来的には国のブランドの列に加え、メイド‧イン‧タイワンの看板を世界に示すべきだと考えている。
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黄敏仁は「マニュファクチャリング‧ブランド」の概念を打ち出し、台湾の中小企業に新たな思考をもたらしている。
問題意識
1991年に尚宏機械を創設した黄敏仁は、大学では国際貿易を学んだが、ビニール袋製造機械のメーカーで6年間営業の仕事をした後、自ら会社を興すことを決意する。ただ、機械について正規の教育を受けていない彼は、やはり大きな隔たりがあることに気づいた。例えば、機械の製造には図面が必要だが、それが不精確だと精密さに問題が出る。そこで彼はコンピュータによる製図を学んだ。また、職人に師事して技術を学び、自ら営業もし、サービスを徹底することで、会社を一定の規模まで育て上げた。
だが、会社の規模が大きくなると別の問題が生じる。「1980年代、製造業では英語の業務は多くなかったので、私も参入できたのですが、10年後には二代目経営者が増えてきて、その多くが海外留学の経験があり、英語が堪能なだけでなく、経営学にも通じていて、ほかの多くの経営者は危機意識を持ち始めました」と言う。そこで彼は、経営学の専門性を高めたいと考え、中山大学のEMBAコースに入り、会社をさらに成長させようと努力してきた。
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黄敏仁が創設した尚宏機械(JANDI'S)はビニール袋を生産する機械を作っており、その経験から、機械メーカーは実力をもって「マニュファクチャリング‧ブランド」を打ち出せると考えている。
カギを握る問題解決
EMBAで学ぶ中で、黄敏仁は「ブランド」という課題に触れ、自社ブランドに興味を持った仲間同士で熱心に議論した。だが彼は、ブランドというのは機械メーカーには適用できないと考えた。ブランドは消費者に対するものであるのに対し、機械製造業の顧客はメーカーであり、企業対企業のビジネスにおいて、買い手はしばしば自社のマシンの製造業者をライバル企業に知られたくないと考える。特にカギを握る設備においては、他社の手に入らないよう、メーカーに関する資料を出さないところもある。
また、M2M(Manufacturer to ManufacturerまたはMaker to Maker、製造業者対製造業者、工場対工場)のマーケットにおいては「問題解決」が出発点となる。思考と技術を基礎に、価格や納期、専門性、技術、設備、経験、サービスなどの実質的な面を話し合わなければならない。そこで彼は「マニュファクチャリング‧ブランド」という概念をもって、経営思考をより理性的なものにしようと考えている。
もう一つ、一般消費者向けの商品とは異なる点がある。消費者向けの商品の保証期間は数年だが、機械設備の場合は10年、20年となり、しかもそれは顧客にとっての生産ツールである。「機械設備の販売プロセスには細心の注意を払い、販売後も常に関心を寄せます。顧客に問題が生じたら、すぐにソリューションを提出し、しかも年中無休で対応する必要があります」と言う。
彼はさまざまな疑問から、機械製造業のグレードアップの道を考えた。台湾の中小のメーカーの多くはOEM(相手先ブランドの製品を受託生産すること)か、OBM(相手先ブランドの製品を受託設計‧生産すること)の業態をとっており、そのほかに各種加工処理を提供する企業も多い。これらのメーカーの大部分はB2Bの中間に位置するため、外部の目に触れることは少ないが、製品の品質に大きく影響する重要な専門的サービスを提供しており、製造業全体において大切な役割を果たしているのである。
彼は同業者を訪ね歩いて大量のデータを収集したところ、評判の良いメーカーには一定の特性があることに気づいた。例えば、優れたメーカーの経営者の大部分が機械を専門とし、自社製品のことを非常によく知っているとともに、顧客のニーズも理解していること。また、サービスが非常に早く、顧客を安心させていること。そして最も重要なのは、彼らの製品の品質が安定していて価格も合理的であるため、リピート購入が多いという点である。そうした中でも代表的なのが壮鋼機械(JUMBO STEEL MACHINERY)である。
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壮鋼機械:品質+サービス
壮鋼機械は1986年の創設、現在の郭秋華董事長は雑用係とも言える営業アシスタントから始め、後に素晴らしい業績を上げて創業者に認められ、会社の幹部となった。その郭秋華は営業経験が豊富で、顧客が問い合わせてきただけで、すぐに完璧な情報を提供し、顧客がまだ考えていない問題に対する提案までするため、多くの顧客はマシン購入を考える際には、まず彼女を思い出す。
壮鋼機械は、最初はどんな設備も売っていたが、ストロー製造機の注文が最も多かったことから、この分野に特化していった。ストローの製造と包装までを一つの流れで完了する製造機を提供している。
「業績が上がると、すぐに新技術の開発を考え、会社の価値を高めています」と郭秋華は言う。マクドナルドにストローを提供しているシカゴの顧客からは、ストロー製造機と包装機の注文が入ったため、彼らは2台の機械をつないだ設備を開発し、これが現在の同社の主力商品になっている。壮鋼機械のストロー製造設備は一度に1000本を生産するとともに自動包装でき、作業員2人分の人件費を削減でき、また従来設置していた包装機4台分の空間も削減できる。「私たちの設備は1セットわずか8万米ドルで、ストロー製造機だけなら5万米ドルです。一方、大手メーカーのストロー製造機は製作費だけで1台29万米ドルもするので、お客様が当社の製品を選ぶ理由は明らかです」と言う。
欧米では、環境のためにプラスチックの使用を減らす政策が採られており、壮鋼機械でも持続可能な経営のために、4年前から環境にやさしいストローを開発する台湾のメーカーと協力してきた。新しく使用する材質はサトウキビ繊維であるため、マシンの構造を変える必要があり、また生産速度を上げて現在は1分に1000本という効率を達成している。このほかに、アメリカのPHAや日本のPHBHなど、海水中で生分解されるストローの製造機メーカーとも設備改良に協力し、環境保全にも貢献している。
郭秋華によると、かつて欧米の大手製造設備メーカーは、品質も生産性も高いが、価格が高かった。また大企業では分業が進んでいるため、顧客に問題が発生した時に即時に解決できないこともあった。そこで彼女は、設備の品質管理のためにテストを繰り返すほか、機械の生産速度と操作の利便性を高めるよう社員に求めた。
また、部品の在庫も非常に重要だと郭秋華はいう。壮鋼機械ではコンピュータによる分析を行い、経常的に交換が必要な部品を選別して保管し、顧客の需要があればすぐに提供できるようにしている。これは多くの中小機械メーカーにはできないことだ。機械設備は一定以上の生産量に達しないと種類の多い部品を在庫として持つことはできないのである。台湾のメーカーが成功しているカギは、品質の安定性だけでなく、スピーディで年中無休のアフターサービスにあり、だからこそ顧客の忠誠度も高まると郭秋華は考える。
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尚宏機械(JUMBO STEEL MACHINERY)の製造工程では、すべての段階で慎重に品質検査を行う。その専門知識とサービスは生産に重要な影響を及ぼすため、製造業において重要な役割を担っている。
メイド‧イン‧タイワンのビジョン
機械産業の発展を俯瞰して黄敏仁は、一般のブランドと肩を並べる「マニュファクチャリング‧ブランド」を打ち出すには、メーカーが経験を積んで品質を安定させ、研究開発に取り組み、製品を理解するとともに顧客のニーズを理解し、全面的なサービスを迅速に提供することが必要だと語る。つまり、確固たる実力でメーカーとしてのイメージを打ち出すことだ。「マニュファクチャリング‧ブランドの核心的価値は、製造部門と、売り手と買い手の双方の良好な関係という基礎の上に成り立ち、能力に応じて顧客とともに商品を生み出していくことです」と言う。
黄敏仁の友人がスニーカーを買ったところ、台湾製ではないのでがっかりしたという。台湾は製靴大国だからだ。この話を聞いた黄敏仁は、現在の「メイド‧イン‧タイワン」の位置付けはあいまいなので、政府の指導を通して、内外の消費者が一つのブランドの商品を買う時、「台湾設計、台湾製造」を指定する方向へ持っていくべきだと考える。こうすることで少しずつ「マニュファクチャリング‧ブランド」を形成していくことができるからだ。「台湾では『台湾精品ブランド協会(TEBA、台湾エクセレンス)』が台湾ブランドの国際化を進めていますが、『マニュファクチャリング‧ブランド』も、国家ブランドのもう一つの代名詞になり得るのです」と言う。彼は、将来的には台湾マニュファクチャリング‧ブランド協会が設置され、機械メーカーのブランド化が推進されることを願っている。台湾の中小企業の実力から見て、まず各社がそれぞれの専門分野で努力し、そこへさらにマニュファクチャリング‧ブランド戦略を実施して差別化を進めていくことができる。こうすることで、ともに「メイド‧イン‧タイワン」を世界のブランドへと成長させていくことができるのである。
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壮鋼機械の郭秋華董事長は営業の経験が豊富で、顧客のニーズに対して完璧なソリューションを提供できる。
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壮鋼機械は、ストレートストローとカーブストローを同時に製造する設備を生産する台湾でも数少ないメーカーだ。
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品質管理とアフターサービスこそ、台湾の中小企業が成功している要因である。
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台湾の中小企業の実力を侮ることはできない。マニュファクチャリング‧ブランド戦略を通して、ともに「メイド‧イン‧タイワン」のブランドを世界に打ち出していくことができる。