
昨年1年間に台湾で結婚したカップルのうち、4組に1組が国際結婚(大陸籍の人との結婚を含む)だという。中でも大多数を占めるのが、台湾人男性と外国籍女性との結婚で、「外国人花嫁」は台湾ですでに新たなグループを形成しつつある。
2002年末までで累計10万人近い花嫁が海を越え台湾にやってきた。ベトナムやフィリピンといった東南アジアからが多くを占め、そこに中国大陸を加えれば23万人を超える数となる。
「台湾の子」を産むという責務を担った彼女たちは、言語や環境の違いによってさまざまな制限を受け、「声なき」弱者となっている。そして彼女たちの子供もその影響を受け、不利な状況に置かれている。
家庭内暴力、教育問題、エスニック・アイデンティティなど、外国人花嫁が台湾で直面する問題は家庭内にとどまらない。社会の発展にも影響する問題なのである。
国際結婚は台湾でも今に始まったことではない。1980年以前は主に台湾人女性がアメリカや日本などの先進国に嫁ぐのが主流だった。それが80年代以降、経済発展や女性の社会的地位向上、東南アジア諸国との外交重視などによって情勢が逆転、台湾人男性が東南アジアや大陸などに配偶者を求め始めた。
20年来、国際結婚は、幸せな婚姻もあれば、なんとか維持しているというような夫婦もいて、一般の婚姻と変わりはなかった。だがここ数年は、外国人花嫁が虐待を受けるといったニュースがよく報道される。虐待に耐えられず飛び降り自殺した、里帰りに帰国したまま帰ってこないといったニュースだ。その氷山の一角の下に、助けを得るすべもなく、社会の片隅で涙を呑む女性が多くいることは想像に難くない。
高雄県が行なった調査によれば、暴力を受けた外国籍配偶者からの被害届けは明らかに増加の一途をたどっている。1998年以前は年間一桁台の件数だったのが、1999年以降次第に増加し、2001年4月末までで月平均7件に達している。
台湾大学ソーシャルワーク学科の林万億教授によれば、夫婦間の家庭内暴力発生率は現在5パーセントとされているが、統計に表れない数字も多く、国際結婚においては特にそれが多いだろうという。

外国人花嫁にとって、台湾の家庭や社会に溶け込み、子供を教育するにあたって最大の障害となるのは言葉の壁だ。そのため各地で外国人花嫁のための中国語教室が開かれているが、こうした教室に参加できるのは一部の人に過ぎない。(卜華志撮影)
宝島の夢砕ける
1992年に台湾で初めて設立された、女性や子供のための緊急保護施設(シェルター)を皮切りに、カトリック善牧基金会は家庭内暴力を受けた外国籍配偶者と接してきた。
台湾で「奥さん」になることを夢見てやってきた、あるベトナム人女性は、結婚してみるとまるで「使用人」となっている自分に気づいた。ベトナムから花嫁を迎えるために夫は借金しており、返済に追われる毎日で、彼女は外で働きたいと思ったが許可されなかった。そのうえ夫やその家族に暴力を振るわれ、それが原因で二度も流産してしまった。警察に届ければいいと友人に言われ、何度か警察署に行ったが、傷が顕著ではなく、暴力を振るわれたようには見えないと言われた。それ以降、彼女は台湾の警察を信用せず、一人で家出して何か月も町をさまよう。ある親切な人が列車で高雄から台北まで彼女を送ってくれ、ある婦人が彼女を10日間泊めてくれた。そして最後に善牧基金会のシェルターにやってきたのである。
25歳のアメイさん(仮名)は、ベトナムから来て3年、2歳になる息子が一人いる。40歳過ぎの夫は経済力に欠けるため親と同居しており、夫の妹夫婦も含めた大家族全員の世話と家事の一切が彼女の役割だ。産後の栄養状態が悪かったアメイは関節炎を患っているが、医者にかかる余裕はない。家計の負担を少しでも減らそうと働きに出た。これが原因で夫の妹に「悪い女だ」と叩かれるようになったあげく、息子も取り上げられた。以前はアメイにやさしかった夫も家族の側に立つようになり、離婚すると言って法廷に訴えた。半年以上もアメイは息子に会えずにいるが、どうすればいいのかわからない。「台湾に残りたいです。子供に会わせてくれるだけでいいのです」とアメイは言う。

カトリック善牧基金会の湯静蓮・事務長は、国際結婚は子供の世代と社会全体に影響をおよぼすため、慎重に対応しなければならないと考えている。(薛継光撮影)
言うに言えない
台湾での国際結婚は、結婚の目的が夫婦双方で異なることが多い。男性側は後継ぎを作ること、女性側は実家の暮らし向きをよくするためである。これが婚姻の維持に大きく影響するし、そのうえ言葉や文化の違いも、いさかいの原因となる。
「台湾に実家も友人もなく、トラブルに直面してもどうしようもないのです」と善牧基金会の湯静蓮事務長は指摘する。言葉ができないのでどこへ助けを求めればいいのかといった情報もなかなか得られず、暴力を受けてもそれが自分の定めなのだとあきらめてしまう。これも、家庭内暴力の被害者が外国籍配偶者に多い一因だ。
湯静蓮さんによれば、シェルターに緊急保護される期間は一般に約2週間から3か月だという。その間、スタッフはまず彼女たちのバックグラウンドや状況を理解し、彼女たちの心を落ち着かせる。それからケースに応じて問題解決を図る。法に訴える手続きが必要な人もいれば、離婚する人もいるし、その場合は帰国旅費を集める手伝いもする。
だが彼女たちの多くは、台湾での経験から台湾人を信用しなくなっている。「暴力を受けた女性は台湾人を恨んでいて、台湾人はみな悪い人間だと、スタッフすら信用してもらえないこともあります」と善牧センターで働くベトナム籍のメイ修道女は言う。現行の法規では、身分証を取得していない外国人配偶者は、離婚すれば台湾にい続けることはできず、しかも子供を連れて行くことも許されていない。これは彼女たちにとって受け入れ難いことで、周囲の手助けが不十分だと感じてしまうのだ。そのため、不幸な結婚生活を送っていても子供のために涙を呑む女性は多く、これも暴力被害の届け出件数が低い原因となっている。

800-088-885-外国籍配偶者相談ホットライン英語: 8:00-10:00ベトナム語: 10:00-12:00インドネシア語: 12:00-14:00カンボジア語: 14:00-16:00タイ語: 16:00-18:00カトリック善牧基金会http://www.goodshepherd.org.tw
保護ホットライン
高雄県の調査では、被害を届け出た外国籍配偶者のうち8割が台湾の言語を話せたという。つまり届け出る人の多くは言葉のできる人ということだ。言葉のできない人に、どうやって助けを求めるかといった情報を与えることの大切さがわかる。
今年4月中旬パール・バック基金会は政府の委託を受け、外国人配偶者のための保護ホットラインを開設した。時間帯によって英語、ベトナム語、インドネシア語、タイ語、カンボジア語の5言語で各国出身のボランティアが電話を受けている。
ベトナム籍のグエンさんは台湾に来て5年になる。国にいる頃から台湾に嫁いだ人の境遇を耳にしており、留学で台湾に来た後は、彼女たちの助けになりたいと思っていた。数か月前に文化大学の同級生の紹介でパール・バック基金会のボランティアをするようになり、ベトナム語の時間帯に電話受付をしている。
「多くは、舅姑や夫に叩かれるという訴えです」とグエンさんは同胞の置かれた状況を憂慮する。「病院で検査してもらい、警察へ行くように言いますが、言葉ができず、助けてくれる知り合いもいないので実現は難しいのです。私にできるのはせいぜい、家庭内暴力センターに連絡して職員を派遣してもらうか、彼女たちに資料や情報を提供することだけです。彼女たちにどこまでやれるのかわかりませんが」
やるせないのは、たとえ彼女たちが助けを求め得たとしても、現行の法規では、彼女たちの直面する問題を解決しきれないことだ。
一つには、外国籍配偶者は台湾居住期間が3年を過ぎないと居留証を申請できないことがある。居留証がないと就労できず、たとえ家庭内暴力から逃れたとしても、一人で食べてはいけないのである。
さらなる問題は、虐待を受けた女性がその家を飛び出そうという時に足かせとなるのが、可愛い我が子である点だ。離婚すれば台湾を離れなければならない。だが子供は母親と国籍が異なるため、母親には子供を引き取る権利がないのである。
阿娟さん(仮名)は台湾に来て長く、6歳の娘と3歳の息子がいる。夫は無職の上にギャンブル好きで、借金の取立てがしょっちゅうやってくる。身の危険を感じた彼女は離婚を申し出た。離婚協議書には、阿娟さんは1週間に1時間子供に会えると明記してある。だが数回会った後は、夫の両親が子供に会わせようとせず、彼女に暴力を振るう始末である。ソーシャルワーカーが訴訟手続きを手伝ってあげようと言っても、阿娟さんは「勝訴の可能性は低く、それによって子供に会う望みが一切絶たれてしまっては困る」と訴訟に踏み出せないまま、つらい思いをし続けている。

南の東南アジアや西の中国大陸の女性と結婚する台湾の男性がますます増えている。結婚のために移住してくる花嫁は新たな移民でもあり、これが台湾社会にさまざまな影響をもたらしている。(荘坤儒撮影)
台湾の子
家庭内暴力だけではない。次第に子供たちも成長し、教育問題がもう一つの大きな問題となっている。
統計によれば、国際結婚で生まれる子供の数はすでに先住民児童の数を超えている。2002年の台湾の出生数は24万7000人、そのうち外国籍の人が出産した子供は3万人に達し、全体の12.5パーセントに及ぶ。
言葉や生活環境の違いがもたらすストレスや不適応によって、外国籍配偶者は台湾人より妊娠中や育児中に精神的な病を患いやすい。
高雄長庚病院産婦人科の許徳耀主任と精神科の周文君主任が行なった研究によると、妊娠中の外国人花嫁には憂鬱傾向が認められ(32.5パーセント)、そのうちの11.3パーセントには自殺願望がある。そのため、子供の体重不足や発育遅滞といった現象も起こりやすい。子供が診察に訪れる理由は、言葉の遅れが最も多く、その次は複合的な問題となっている。幼児の心理発達指数から判断すれば、国際結婚で生まれた子供の63.6パーセントが発達に遅滞現象が見られるという。
外国籍配偶者が生んだ「台湾の子」は、後天的な条件でも不利な立場に置かれてしまうことが多い。政府(内政部)の統計によれば、外国人花嫁の平均学歴は低く、2001年に結婚した外国人花嫁の学歴は中卒以下(中卒を含む)が41パーセントと、台湾人花嫁の29パーセントという数値を大きく上回る。
また結婚年齢も低い。2001年の統計では、24歳以下が72パーセントと、台湾人の2倍の数に達するうえ、そのうち30パーセントは20歳未満である。
台湾大学の林万億教授によると、3分の1を占めるこれら20歳未満の花嫁は心身的、社会的成熟度がまだ低く、受けた教育の年数も台湾人女性より3〜5年短い。母親の競争力の低さは子供の教育にも影響し、やはり競争力の低い次世代を生み出すことになる。
現在、国際結婚家庭の子供たちがすでに学齢に達してきており、彼らの学習問題も次第に浮き彫りになってきた。外国籍配偶者の比率が最も高い澎湖県では(人口6万人のうち800人が東南アジア諸国、600人余りが大陸出身の配偶者)、小学校はまるで「多国籍軍」といった状態で、外国籍の親を持つ児童は成績も下半分に偏りがちだという。澎湖県教育局長の顔秉直局長は、これら「台湾の子」は澎湖の教育水準に影響をおよぼす恐れがあるとまで言い切る。

国際結婚の場合は愛情の基礎が十分ではないと考える人も多いが、双方が誠意を持って家庭を築き、社会がサポートしていけば、幸せな家庭生活を営むことができる。(薛継光撮影)
人口の「交換」
国際結婚が台湾人男性にとって後継ぎを作るための方策となっていることは統計からも明らかだ。行政院主計処が今年7月末に発表した統計によると、昨年結婚した台湾人男性の4分の1が外国人(大陸籍を含む)を妻としており、その人数は4万4843人に達する。
これは社会の趨勢であり、人道的にも阻止するわけにはいかない。だからこそ、社会はそれに伴って生じる問題に無頓着ではいけない。林万億教授の指摘では、今日海外へと嫁いでいく台湾人には高学歴の女性が多く、反対に妻として海外から迎えるのは社会的、経済的に地位の低い女性が多い。いわば人口層の「交換」が行なわれているような状態で、これは台湾の人口構造に大きな変化をもたらし、台湾の生産力や経済力に大きな衝撃をもたらすだろうというのだ。
もちろん、東南アジアからやってきた配偶者たちは台湾社会に多様性をもたらし、台湾はそこから開放的で寛容な社会を作ることを学べるだろう。だがその一方で、そこから起こりうる分裂や衝突の危機に、早いうちから取り組む必要がある。
林万億教授は、第二次世界大戦中にアメリカで日系人が収容所に入れられたことや、戦後まもなくの日本人の戦争花嫁、そして最近の同時多発テロ後、アメリカで中東出身者が置かれた状況などを例に、外国人配偶者は母国文化を100パーセント維持することなど不可能なのはもちろん、現地社会に溶け込むこともそう容易ではないと指摘する。まして、もともとエスニックの対立問題が存在する台湾では、人々が寛容の精神を学ばなければ、外国人配偶者が加わることで、さらに複雑な分裂状態が生じるだろうという。
「特に大陸からの配偶者には、ナショナル・アイデンティティの問題があります」と林教授は言う。これまでずっと、彼女たちの国籍は曖昧な扱いを受けてきた。言葉の障害がないので外国人花嫁とはされず、「同胞」と呼ばれてきたものの、実際は同胞として扱われることもなかった。そのため台湾社会に潜む大陸花嫁の問題はあまり理解されていない。それらは政治的理由によって重視されず、問題が先送りされてきたのであり、そのため、問題が一層深刻化する恐れもある。
尊重、調和、愛
「10年間彼女たちと接し、国際結婚がもたらす不幸な状況をつぶさに見てきて、それらが女性や子供にもたらす深い傷、将来への影響の恐ろしさを感じています」と、善牧基金会の湯静蓮理事長は語る。政府が適切な解決策や防止策をとるのはもちろん、家庭問題の解決はやはり家庭に帰するものだと湯さんは言う。
4月中下旬に善牧基金会は、「尊重、調和、愛――国際結婚家庭に祝福を」というイベントを全国巡回で催した。家庭から暴力を退け、互いに尊重し、子供が愛に満ちた環境で成長できるよう願ったイベントだ。
「問題の解決には、まず婚姻の商品化をやめなければなりません」と林万億教授は指摘する。国際結婚を仲介し、婚姻を商品とする業者が出現してすでに10年になるが、政府は何の対策も講じてこなかった。我が国の人口政策をどのようにすべきか、不良仲介業者をどのように取り締まるか、関連する法規や措置は一向に整っていない。
「国際結婚に対する美しい誤解が負担を生むなら、それは社会が背負い、補っていかねばなりません」林教授は、医療保険や教育、社会福祉などの公共サービスにおいて、国際結婚家庭を対象に投資がなされなければならないと指摘する。
外国籍配偶者に対するサポートは、言語や生活習慣、保健、法律、人権などの文化面でも必要で、彼らを迎える側の台湾人にも教育がなされなければならない。彼女たちに手を差し伸べないのでは、台湾社会が彼女たちに「集団的暴力を働く」に等しい。「結婚前に予防をしておかないと、社会的コストも高くつきます」という林教授は、社会が払うべき代償がどれほどになるか予測はし難いが、次の世代にそれを負担させるべきではないと考える。
これは台湾社会にとって大きな課題となるだろう。人道に反せず、かつ社会の発展も考慮に入れた方策。それを考え出す試練であり、契機であると言えよう。