人口の「交換」
国際結婚が台湾人男性にとって後継ぎを作るための方策となっていることは統計からも明らかだ。行政院主計処が今年7月末に発表した統計によると、昨年結婚した台湾人男性の4分の1が外国人(大陸籍を含む)を妻としており、その人数は4万4843人に達する。
これは社会の趨勢であり、人道的にも阻止するわけにはいかない。だからこそ、社会はそれに伴って生じる問題に無頓着ではいけない。林万億教授の指摘では、今日海外へと嫁いでいく台湾人には高学歴の女性が多く、反対に妻として海外から迎えるのは社会的、経済的に地位の低い女性が多い。いわば人口層の「交換」が行なわれているような状態で、これは台湾の人口構造に大きな変化をもたらし、台湾の生産力や経済力に大きな衝撃をもたらすだろうというのだ。
もちろん、東南アジアからやってきた配偶者たちは台湾社会に多様性をもたらし、台湾はそこから開放的で寛容な社会を作ることを学べるだろう。だがその一方で、そこから起こりうる分裂や衝突の危機に、早いうちから取り組む必要がある。
林万億教授は、第二次世界大戦中にアメリカで日系人が収容所に入れられたことや、戦後まもなくの日本人の戦争花嫁、そして最近の同時多発テロ後、アメリカで中東出身者が置かれた状況などを例に、外国人配偶者は母国文化を100パーセント維持することなど不可能なのはもちろん、現地社会に溶け込むこともそう容易ではないと指摘する。まして、もともとエスニックの対立問題が存在する台湾では、人々が寛容の精神を学ばなければ、外国人配偶者が加わることで、さらに複雑な分裂状態が生じるだろうという。
「特に大陸からの配偶者には、ナショナル・アイデンティティの問題があります」と林教授は言う。これまでずっと、彼女たちの国籍は曖昧な扱いを受けてきた。言葉の障害がないので外国人花嫁とはされず、「同胞」と呼ばれてきたものの、実際は同胞として扱われることもなかった。そのため台湾社会に潜む大陸花嫁の問題はあまり理解されていない。それらは政治的理由によって重視されず、問題が先送りされてきたのであり、そのため、問題が一層深刻化する恐れもある。
尊重、調和、愛
「10年間彼女たちと接し、国際結婚がもたらす不幸な状況をつぶさに見てきて、それらが女性や子供にもたらす深い傷、将来への影響の恐ろしさを感じています」と、善牧基金会の湯静蓮理事長は語る。政府が適切な解決策や防止策をとるのはもちろん、家庭問題の解決はやはり家庭に帰するものだと湯さんは言う。
4月中下旬に善牧基金会は、「尊重、調和、愛――国際結婚家庭に祝福を」というイベントを全国巡回で催した。家庭から暴力を退け、互いに尊重し、子供が愛に満ちた環境で成長できるよう願ったイベントだ。
「問題の解決には、まず婚姻の商品化をやめなければなりません」と林万億教授は指摘する。国際結婚を仲介し、婚姻を商品とする業者が出現してすでに10年になるが、政府は何の対策も講じてこなかった。我が国の人口政策をどのようにすべきか、不良仲介業者をどのように取り締まるか、関連する法規や措置は一向に整っていない。
「国際結婚に対する美しい誤解が負担を生むなら、それは社会が背負い、補っていかねばなりません」林教授は、医療保険や教育、社会福祉などの公共サービスにおいて、国際結婚家庭を対象に投資がなされなければならないと指摘する。
外国籍配偶者に対するサポートは、言語や生活習慣、保健、法律、人権などの文化面でも必要で、彼らを迎える側の台湾人にも教育がなされなければならない。彼女たちに手を差し伸べないのでは、台湾社会が彼女たちに「集団的暴力を働く」に等しい。「結婚前に予防をしておかないと、社会的コストも高くつきます」という林教授は、社会が払うべき代償がどれほどになるか予測はし難いが、次の世代にそれを負担させるべきではないと考える。
これは台湾社会にとって大きな課題となるだろう。人道に反せず、かつ社会の発展も考慮に入れた方策。それを考え出す試練であり、契機であると言えよう。