私は黄百楽、36歳。ロッククライミングの中華民国代表選手として10年以上のキャリアを持つ。現在の最大の目標は、2009年に高雄で開かれるワールドゲームズで金メダルを取ることだ。
ロッククライミングと聞くと、多くの人は映画「ミッション・インポシブル」でトム・クルーズが崖を登る姿を思い出し、男性の遊びだと思うかも知れない。確かに台湾の選手の中で女性は10人ほどしかいない。
ロッククライミングは、ほぼ垂直の岩壁の突起や溝を手と足だけでとらえて登るスポーツだ。度胸と技術の他に、全身の筋力、集中力、柔軟性、バランス、判断力、心理的要素などが関わってくる。支点を変え、重心を移動させ、身体を上へ引き上げて行くことは精神力だけではできない。
私は大学2年の時にサークル仲間と北投の大砲岩を登ってロッククライミングの魅力に取り付かれた。競技は私の人生に目標をあたえてくれ、極限に挑戦して勝つために、絶えず練習してきた。
ロッククライミングでは女性の方が体重が軽くて柔軟性があるという優位性がある。スピードを競う競技の場合は、瞬発力と技術と知力が求められ、女性の方が良い成績を収めることが多い。私も98年に国内の男子競技への出場権を得た時は、多くの男子を抜いて2位と4位に入賞した。
それでも、この世界で女性はやはり少数派で、排斥されることもある。「俺たちに登れないのに、お前にできるわけがない」「そんなに大きな尻でよく試合に出る気になるな」「黄百楽が競技に集中して優勝できるのも、未婚で子供がいないからだ」などと、もう10年も言われてきた。男性は女性に上に立たれると面子をつぶされたと思うようだ。
私はこうした言葉には何も答えずに彼らの前で登ってみせてから「登る楽しさや自由は女性でも変わらないのよ」と言ってやる。でも、性別の壁を超えてしまったからだろうか、私は彼らの目には「可愛くない女」と映るようで、そのため互いに刺激しあえるクライマー仲間や、下で私の安全のためにロープを引いてくれる仲間になかなか出会えない。
活躍が制限されることもある。2002年7月に総統杯競技会の女子部門で私が優勝した時、私の成績は男子部門優勝者のそれより良かったのに、男子の優勝賞金は1万2000元なのに対し、女子は5000元に過ぎなかった。
私が主催機関に抗議すると「男子は出場者が多くて競争が激しいが、女子は人数も少なくてレベルが低い。男子選手からの抗議を避けるために賞金額に差をつけた」と言われ、さらに「選手は賞金のためではなく、スポーツ精神のために参加すべきではないのか」などと言われた。この後、私は「積極的に権利を求めすぎる」という理由で、危うく出場停止を命じられるところだった。
また身長が147センチなので「身長不足でクライマーにふさわしくない」と評されることもあるが、私は口では答えず、腕を曲げて盛り上がった上腕二頭筋を見せることにしている。クライミングや水泳など、毎日10時間の訓練の成果だ。
経費も工面しなければならない。商学部出身の友人が、大会出場の企画書を書いて企業や政府の資金援助を求めてはどうかと提案してくれたので、雑誌の1000大企業のリストの上位から次々と電話をかけてみた。運が良ければ、企画書を送ってくれと言ってくれるが、ほとんどの場合、すでに予算がないと断られる。100通以上電話をかけて得られたのは、蕃薯藤岩場の黄正安さんからの10万元だけだった。
多くの男子選手は、面倒なので企画書などは書かないが、私はこの点に力を入れてきた。まず、政府体育委員会の林徳福主任委員に幾度か手紙を書き、その結果、2003年と2005年には同委員会と金車文教基金会から資金援助を受けることができた。こうして私は台湾のロッククライミング界で最も多くの資金援助を受ける選手となったため、男性選手の不満や嫉妬を買い、ネットに悪口を書かれたこともある。
幸い、それは私の成績が最も良い時期だった。98年にはシンガポールで優勝、2001年のアジア選手権で3位、2002年のロータリーカップでも優勝した。
昨年はKeep Walking基金会のドリームプランから105万元の援助を受け、2年以内に6〜8の国際大会と訓練に参加することになった。主催者によると、面接前、私は6人の援助対象候補ではなかったが、企画書の詳細な競技出場計画と、面接時の私の熱意が評価されたということだ。これで資金面でも一息つけ、日本で2ヶ月にわたる訓練を受けることになった。
最初の頃は理解してくれなかった家族も、私が一人で頑張っているのを見て、今では陰で支えてくれる大きな力になっている。現在の課題といえば、長年の筋肉の使いすぎによる運動傷害のほかに、これからは「年齢」が問題になってくる。ただ、最大の課題は年齢よりも将来的なライフプランの方だ。それでも二つのことを思い出すたびに、頑張っていこうという気持ちになる。
一つは、ロッククライミング中の事故で18歳で亡くなったフランス人の男子選手から言われた言葉だ。「今やらなければ将来できないこともあるのだから、若いうちに自分のやりたいことを積極的にやらないと、後悔することになる」という言葉だ。もう一つは、98年にシンガポールの大会で優勝した時のことだ。登り終えた時、あまり自信がなかった私は、盛大な拍手喝采に驚いて我に返った。多くの人の励ましが私の力になっているのだ。これからの2ヶ月、私は日本で訓練を受ける。ハードなカリキュラムが待っているので、他人の視線など気にしている暇はないが、それも悪くない。もともと私は行動ですべてを証明してきたのだから。
黄百楽プロフィール
血液型:B型
星座:いて座
趣味:水泳、ジョギング、トレッキング、沢登り、ヨガ
性格:以前は小柄なことで劣等感を抱いていたが、実績をあげて自信をつけてきた。
大学2年で初めてロッククライミングに触れて以来、内外で取った優勝カップは40に達する。
世界ランキング第18位。台湾では最高の世界ランキング。