海で理想を追う
台湾全土の漁港調査の前に、陳思穎は政府科技部海洋データバンクの仕事を辞し、アズールの運営に専念することにした。学術機関で8年にわたって海洋観測を行なってきた彼女は「海洋環境は本当に悪化している」と感じていた。「海がかわいそうです。海の生き物は言葉を発せず、黙々とこれを受け入れているのです。サンゴ礁は私たちのために二酸化炭素を消化してくれているのに、プラスチックごみのために共生する褐虫藻は死んでいきます」と憤りを語る。こうした状況を黙って見ているわけにはいかないと、本気で「海洋ごみ回収マシン」プロジェクトに取り組むことにしたのである。
計画を立て始めた頃、昼間は出勤し、夜は会議という生活で、将来の見込みも不透明なため、親や友人から諦めたほうがいいと言われた。しかし彼女は「自分の理想のために、一度は勇敢にならなければ」と自分に言い聞かせた。
この信念は、同じく海のために努力したいという仲間を引き寄せた。COOの顔湘霖は社会的企業に勤務した経験からクラウドファンディングに詳しく、チームでは対外宣伝文書とスポンサーとのコミュニケーションを担当している。陳思穎はもう一人のメンバー加入時のことを話す。「ある友人は、宜蘭の海に遊びに行って海洋ごみの問題に気付き、私たちの取り組みの意義を知りました。後に彼女は専門であるビジネス管理面で協力してくれることになり、財務担当になりました」
アズールは理想実現の可能性を探り、起業コンクールにも参加した。コンクールでは、顧客が明確ではないというので勝ち抜けなかったが、コンクールを主宰した台湾大学の李吉仁教授からは、自分たちの準備が整い、環境がこれを必要とする時が来れば、自然と多くの人が支持するだろうと言われた。さまざまな業種の先輩たちからもアドバイスを受けることができた。マーケットを求める際、まずは製品の規格を打ち出して投資家の興味を引き、その間に規格の精度を高めていくべきだと。マーケティングに詳しくなかったアズールにとっては、このアドバイスが大きな意味を持った。チームはプロジェクトを開始し、クラウドファンディングの形で同じ理念を持つ人々の支持を集めたのである。
海洋ごみ回収マシン湛鬥機の構想や機能などは第四世代まで来ている。