長所を伸ばす
一着の質の良い背広は、生地選びから型紙作成、スタイルを決めるまで、すべての面で細部が大きく影響する。「お客様のこだわりの中から多くを学んできました」と言う。ぱりっとして胸板が厚く見える構造、身体にフィットした肩や腰、胸のライン、しかも動きやすいこと。見た目が美しいうえに、機能面も優れていなければならないのである。梁冬富は、丁寧に顧客の声に耳を傾け、常にそれを尊重して修正を重ねてきた。「とにかくお客様にとって着心地が良いこと、それが不変の原則です」
「数十年来、私は朝から晩まで10時間以上、いつも作業台の前に立って働き続けてきました」それでも顧客の満足そうな笑顔を見ると、すべての苦労は報われた。アジア‧マスター‧テーラーズ‧フェデレーションの裁断部門のコンクールで優勝したことで総統との面会も果たした梁冬富は、型紙作りと裁断に全神経を集中する。力学的原理に従って裁断することで、スーツは身体にぴったりフィットする。「一着のジャケットには18本の垂直のラインがあり、どれも気を抜くことはできません」と話す梁冬富は、オーダーメイドのスーツ作りは家を建てるようなものだとたとえる。ラインが一本でもゆがんでいたら、すべてが傾いてしまうのである。梁冬富は軽やかに語るが、こうした技術は弛まぬ努力を重ねてこそ得られるものなのである。
襟のスタイルからスリットの入れ方、ボタンの数のほかに、ゆったりした形か、ぴったりした形か、ハードな生地かソフトな生地かまで、背広の変化は留まるところを知らない。スーツの価格を左右する生地だけを見ても、常に新しいものが開発されている。梁冬富は高級なウールの生地を取り出して見せてくれるが、まるで蝉の羽のように薄くて軽い。「こんなに薄い生地を扱うのはテーラーにとっては大きなチャレンジです。針や糸も特注しなければなりません」と言う。
こうした実力を基礎に、梁冬富の作るスーツは東洋人の短所を隠し、長所を伸ばしてよりエレガントに見せる。「現在、イタリアで流行しているものは、すべて私の店に揃っていますよ」と言う。台湾の背広仕立て業は時代とともに進歩し、流行を確実につかみつつ堅実な実力を発揮し、常に世界のファッション界で注目されてきた。
ベテランテーラーの技術は、採寸から起こす型紙に最もよくあらわれる。