働きながら世界を旅する
オーストラリアで国際関係の博士号を取り、2008年に台湾国際ワーキングホリデー協会を設立した張慶邦によると、オーストラリアではワーキングホリデーの制度が整っており、現地の人と同様に働く権利が認められている。一般に、同国の仕事はフルタイムとパートと臨時雇用に分けられ、20歳以上の最低時給は15.96オーストラリアドル(台湾ドル約480元)、アルバイトでも雇用主は給与の9%を個人退職金に拠出することとなっており、外国人は出国後もその受領を申請できる。ただし、法定退職年齢の65歳に満たない場合は30%の税金が引かれる。
数ヶ月前、台湾のマスコミは、ある国立大学卒業生がオーストラリアで2年間働いて100万台湾ドルを貯金したと報じ、その行為を「台湾人労働者」と批判した。こうした報道の影響を張慶邦は心配する。この若者は税を申告したのだろうか。「ワーキングホリデーの精神は金儲けではなく、現地の文化を体験することです。この事例によって多くの人がオーストラリアでは金が稼げると誤解してしまうと、法に触れる可能性もあります」と言う。
ワーキングホリデーに行く若者が増えているのは、台湾が8ヶ国とワーキングホリデー協定を結んだことと関係している。張慶邦によると、台湾のソフトパワーは世界に知られており、若者の教育レベルは高く法を遵守するので、多くの国と良好な関係が築けている。また、台湾国内の経済状況が良くなく、初任給が低いということもあって、少なからぬ若者が就職前にワーキングホリデーに出ていく。
注意1:労働契約をよく読む
オーストラリアは世界各国から若者を受け入れているため、仕事に就くには多くの人と競争しなければならない。オーストラリアの失業率は5%で台湾の4.2%よりやや高く、都市部の飲食店やレジなどで消費者と接する仕事に就くにはオーストラリア英語に通じている必要がある。そこで、時給は高いが重労働の農場や食肉加工工場などで生活費と旅費を稼ごうとする人もいる。だが、機械のように単調な作業に耐えられるかどうか、よく考える必要がある。
国内の代行業者や現地の仲介業者に仕事を探してもらう場合、契約内容に注意するよう張慶邦は注意を促す。労働契約は専門性が高く複雑で、休暇や残業手当などについて細かく規定しており、契約は交わした方が良いが、一度契約してしまえば、それに従わなければならない。紹介された職場に行ってみると、同僚は中国大陸の人ばかりで、現地の人と一緒に働くという期待が裏切られたというケースもある。
まず、トラブルを避けるために契約内容によく目を通すこと、そしてパスポートは決して仲介業者や雇用主に預けないこと、要求されたらコピーだけを渡すよう張慶邦はアドバイスする。
労働委員会のサイトでは、ワーキングホリデーが認められている8ヶ国の労働法規とビザ申請条件などが紹介されている。日本の場合、東京の時給は850円(約250台湾ドル)、沖縄は653円だ。日本のワーキングホリデービザを申請するには20万円(約7万台湾ドル)、オーストラリアの場合は15万台湾ドルの財産証明が必要となる。
注意2:保険は必要
車の運転にも気を付けたい。2011年、オーストラリアでは台湾の若者6人が交通事故で亡くなった。レンタカーを運転する時は交通ルールを守り、車の検査とメンテナンスにも注意する。また台湾と違って左側通行で運転席は右側なのにも注意したい。
外交部の統計によると、我が国とワーキングホリデー協定を結ぶ国々で、2011年に在外公館が処理した緊急事件は、日本が674件と最も多く、続いてオーストラリアが161件、韓国とドイツが133件、イギリスが126件だった。
台湾人青年からの支援要請案件で最も多いのは交通事故、労働トラブル、刑事事件などで、法律に関する問い合わせであれば在外公館は協力する。
自分の身を守るため、また事故などで他者に負担をかけないよう、海外へ行く前には必ず保険に加入するべきである。
駐オーストラリア代表を務めたことのある外交部主任秘書の林松煥は、2011年に事故で重傷を負った若者のサポートをしたという。その若者はオーストラリアで働いて旅費を貯め、雪山へ遊びに行った。雪山では雪が深く積もっていると思い込み、飛びこんで大怪我をしてしまったのだ。現地の雪は浅く、下は岩がごろごろしているのである。若者は大怪我で全身が麻痺してしまい、最終的には在外公館の協力で400万台湾ドルを費やし、専用機をチャーターして台湾に移送された。
海外ではいつ何が起るか分からないので、万一に備えなければならない。林松煥によると、オーストラリアでは米国と同様、医療費が非常に高い。入院する場合、最も安い6人部屋で税金を加えると1日3万台湾ドルになる。それに医療費が加わるので、保険がなければ個人で負担できる額ではない。
注意3:良き外国人となる
「ワーキングホリデービザやビザ免除制度があるからと言って、その国に入れるとは限りません」と林松煥は言う。現地の移民官がオーバーステイを疑う時は、入国を拒まれることもある。
ワーキングホリデーに行く若者が増え、問題も増えてきた。関連業務は外交部、労働委員会、教育部、観光局などに跨るため、張慶邦は政府は早急にこれらを統合した「ワーキングホリデー・センター」を設置して、各国の労働法規の知識を普及させるべきだと提言する。また、外国から台湾にワーキングホリデーに来る人々が台湾社会に溶け込めるよう、観光局のように空港や駅、ホテルなどにハンドブックを用意するといいだろう。
互恵を原則とするワーキングホリデー協定だが、台湾から出ていく人数に対し、我が国にワーキングホリデーに訪れる外国人はあまり増えていない。
外交部の統計によると、2004年から2012年1月までの間に、我が国が発給したワーキングホリデービザは1000件に満たず、最も多いのが日本の517人、続いて韓国の175人、オーストラリアが128人となっている。早くから協定を結んだニュージーランドからは43人に過ぎない。
2013年からアイルランドへもワーキングホリデーにいけるようになった。美しい景色と物語が台湾の若者たちの到来を待っている。