オンラインゲームのビジュアルと、魅力的なシーンが本物になってプレイヤーの前に現れた。
金曜の午後、RMTリアリティゲーム館では、二十数名のプレイヤーが脱出ゲーム「謎走時空」へのチャレンジに腕を鳴らす。壮大な音楽が響き、衣装に身を包んだNPCが映像に現れ、ルールを説明する。3組に分かれたプレイヤーは、ゲームのツールを手に持ち、制限時間2時間の謎解きに心が逸る。
ゲームが展開する傍ら、RMTリアリティゲームの100坪の空間のもう一つのエリアでは、壁いっぱいにゲーム人数やフィールドデザインを話し合うメモが貼られ、メンバーが新しいゲームのテーマについて意見を戦わせている。
リアリティにあふれ、音楽に囲まれ、プレイヤーの謎解き力を試す大掛かりなリアルゲームが、ウェブの世界から飛び出して、いま最も注目のゲームエンタテインメントになった。2012年、台湾大学工商管理学科卒の20代、張晋瑋、邱宥琳の二人が、台湾のリアルゲームブームの火付け役となった。
卒業記念の密室ゲームから起業へ
2012年、日本からリアル脱出ゲーム『人狼村からの脱出』が台湾にやってきた。小さい頃からゲーム好きの張晋瑋は参加後もまだ遊び足りず、同じくリアルゲームの熱狂的なファンである邱宥琳と一緒に、ヨーロッパの童話をひねった「暗黒童話」リアル・ロールプレイングゲームを編み出した。卒業前に自分の代表作を残したかった。
テストを4、5回繰り返し、会場には人出の多い華山芸文センターを選んだ。初チャレンジとはいえ、張晋瑋は自信満々だった。新しいゲームスタイルが人を呼び、チケットが7~8割売れれば、コストの80万元が回収できると見込んだ。
だが予想ははずれ、「暗黒童話」第一週のチケット売れ行きは惨憺たるものだった。張晋瑋はようやく「台湾人は、脱出ゲームなんてもの自体を知らないのだ」と気づく。チームは急いで緊急措置を講じ、フェイスブックでチェックインするとチケットを割り引く手法で集客し、SNSの口コミマーケティングでなんとか人気上昇に成功した。3週間で千人以上が入場し、脱出ゲームが台湾でも一つの選択肢になった。
しかし張晋瑋も邱宥琳も学生だったから、業者との協議では挫折もあった。そこで、「暗黒童話」が終わると、張晋瑋は、資金を集めてRMTリアリティゲーム公司を立ち上げようと決心した。会社名は、映画『バットマン』の登場人物でなぞなぞに異常な執着を示す「リドラー」が、いつも書き残す「Riddle Me This(この謎解いて)」にちなんでいる。
RMTは設立以来、様々なゲームを発表してきた。ギリシャ神話に体力競技と謎解きを取り入れたリアルゲーム「ヘラクレス」もあれば、びっくりドッキリ、身の毛もよだつお化け屋敷ゲーム「美子」もある。2013年7月には、映画ガリレオ『真夏の方程式』上映に合せ、RMTと配給会社との協力で密室ゲーム「404号室からの脱出」を制作し、一躍有名になった。
プロモーションのために、RMTはフィールドデザインを映画のテーマ・海辺の旅館にする。海辺の旅館に宿泊したグループは、旅館の従業員が何年も前に404号室で忽然と行方が知れなくなり、それ以来その部屋に入った者はないと知る。好奇心旺盛な彼らは404号室を探検するのだが、気づいた時には閉じ込められていたという設定である。密室の謎を解かなければ、部屋から出られない。緊張と冒険の謎解きがこうして始まる。
ミステリーの面白さと映画の主役・福山雅治の人気にあやかって「404号室」は1日4回、2週間のイベント期間中、毎日満員だった。大好評だったため、夜8時の終了予定を最後は夜中まで延長し、3千人を超えるプレイヤーが参加した。
「404号室からの脱出」が成功を収めると、企業から声がかかるようになった。ヤフー、富邦など大企業がRMTにオリジナルゲームのデザインを依頼した。従業員同士の親睦とチームワークの強化が目的である。今ではRMTが制作した40以上のゲームのうち、6割が企業のために作ったカスタマイズゲームである。
2014年4月、RMTは再び自分に挑戦する。規模は最大、3チームが同時に遊べる「謎走時空」である。タイムトラベルをテーマにしたリアルゲームは、サイエンスファンタジーや中世のイメージなど異なる12のフィールドからなる。月間600人以上がチャレンジしている。
RMTがリアルゲームを確立すると、類似の業者が続々と現れた。六福村など大手テーマパークも、リアルゲームのアトラクションをオープンした。現在台湾にはこうしたワークショップやチームが6社以上あり、平日・週末ともゲームが行われている。開催密度の高さから、博客来のコンビニチケット販売システムに「リアル脱出」コーナーが開設され、増大する顧客に応えている。
「アクティブ派」が集合
米国シリコンバレー生れのリアル脱出ゲームは、海外での流行は長い。近年、日本のテレビ番組『run for money逃走中』や韓国の『Running Man』が大当りすると、大型セットや競技性に富んだゲームに人気が集った。台湾では海外の会社から導入され、最近になってリアルゲームがブレイクした。正真正銘の台湾企業RMTリアリティゲーム公司は、学生時代に「アクティブ派」だったメンバー数人が興したものだ。
今年25歳の張晋瑋は小さい頃からリアルゲーム番組の緊張感と刺激的なチャレンジが好きだった。大学時代にはリアルゲーム番組のアシスタントに応募し、実戦経験を積んでいる。オンライン推理ゲームに夢中だった邱宥琳は、チームに加わる前に既に学部でリアル推理イベントを開催し、経験豊富である。
二人は最初のゲームにとりかかるまで、親しくはなかったが、リアルゲームへの思い入れが二人を繋いだ。RMT設立後も同志が集ってきた。ゲームデザイナーや、理工系出身者もいる。「漫画『ワンピース』のように、冒険の旅に仲間が増えていくんです」張晋瑋がいう。
「年齢に関係なく、若い心で工夫と好奇心に満ちていることが、RMTに入る上での必須条件です」チームの雰囲気は気楽で楽しい。会社の定期的なブレインストーミングの時間もゲームで行う。「物々交換」チャレンジを行ったこともある。メンバーは手持ちのモノで、なんとかしてゲームが設定するターゲットに交換していく。「実際に体験しなければ、ゲームの楽しさは理解できません」と張晋瑋は話す。
ひらめいたインスピレーションを記録してもらおうと、RMTでは「パーキングロット(駐車場)」制度を設けている。コンセプトやゲームの提案が成熟しているかどうかに関わらず、集めておく。その後、知恵を出し合って、面白いゲームデザインへと発展させていく。
気軽な楽しさとともに、市場に寄り添うことも忘れない。最初のリアルゲーム「暗黒童話」はチケットが売れないという危うい時期もあったから、張晋瑋にはマーケティングと消費者に歩み寄ることの重要性が身にしみている。どのゲームもオープン前には、RMTのルーツである万隆店でトライアルを実施し、プレイヤーの意見を集めて修正していく。
「脱出ゲーム最大の魅力は、プレイヤーが実体験できること」だから、ゲームスタート前の紹介動画からフィールドのBGMやムードまで、RMTチームが綿密にデザインする。プレイヤーの人数、ステージの難易度も、メンバーが討論を重ねて決めている。
張晋瑋は、ステージが簡単すぎれば面白くないし、難しくてなかなかクリアできず、時間が長くなるとプレイヤーは落ち込んでしまうという。ステージが一つしかないと、つまらなそうに傍観するプレイヤーが現れる。だから、ゲームをいくつもの小さなステージに分けて、一人一人が参加できるように導く。
緊迫の謎解きとプレイヤーの限界に挑戦する脱出ゲームは大人気だが、RMTの目標はそれだけではない。脱出ゲームのほかにも、ロールプレイやミステリー、極限の冒険など、様々なジャンルのゲームも開発し、台湾に多様なゲームを生み出したいと願う。
スマホやタブレットで一人寂しく遊んでいる場合ではない。ホットなリアルゲームが台湾で始まっている。謎に挑戦する準備はできているか。