デザインは投資
最初は1人だった大可意念は昨年は34人のスタッフを擁するまでになり、3年目からは、しだいに顧客と年間契約を結ぶ形を採るようになった。
「デザインの精度を高めるために、お客様の生産ラインも見ますし、財務報告や経営機密、時には内部の問題まで理解します。そうしてこそ、企業体質に合ったデザインを提案できるのです」5分で美しいデザイン画を描ける謝栄雅は、大半の時間を顧客との意思疎通に費やす。
台湾のデザイン会社の多くはプロジェクト単位で仕事を請負う。だがその方法だと、早く支払いを受けるために、早く量産できなければならず、顧客の長期的イメージなどに関わりなく多数の美しいデザインから相手に選んでもらうことしか考えなくなると謝栄雅は指摘する。
「年間契約を結ぶということは、その企業の専属デザイナーになるということですから、双方の関係が違います。契約更新時には具体的な業績が考慮されますし、デザインした作品が見本市に出される時には、多くの人を集めなければなりません。こうした成果を上げるためには、知恵を振り絞って特殊な素材や色彩や表面処理などを考えてブランドの特色を出す必要があります」と言う。顧客がデザイナーに金型製作にまで関わらせてくれるかどうかは、デザイナーが材質や工程や原価について、どこまでプロフェッショナルかにかかっている。
信頼関係を築くために、多くの顧客は契約書に、競合者の仕事は契約解除後の2年間も含めて受けてはならないと定める。
「デザインの良し悪しは、商品が売れたかどうかでは必ずしも評価できません。広告と同じように、工業デザインの効果を測定するのは難しいものです」謝栄雅は、顧客と密接に協力してデザイン会社の力を発揮できるようにするとともに、顧客のブランド価値を高めることに協力する。
彼の試算では、大可意念のデザイン料は一般のデザイン会社の5倍だという。「ブランド確立へ向う台湾企業にとってデザインは重要な投資です。しかし、どんなに高いデザイン費も、その後の工程より遥かに安いのです。例えば、新製品のデザイン費は50万、金型製作は500万、マーケティングは5000万、部品代が5億という具合です。もしデザイン料を節約したためにデザインが周到でなければ、その後のロスが増える可能性があります」
台中の路地にある詰佑企業は社員数20人、2005年に、真空防湿箱のデザインを大可意念に依頼したところ、一挙に世界の3大デザイン賞を受賞し、ニコンやコダックから大量の注文が入った。陳信育社長は、何もしなければ1万個しか売れなかったものが、デザインのおかげで10万個も売れたと話す。
国際的な賞を受賞したことで、陳信育社長はブランド確立に力を入れ始めてバキュームセーバー(真空収納箱)を商標登録し、OEMとODMから一挙に自社ブランド展開へと進んだ。
バイオリン用の防湿ケースは、取っ手を押したり引いたりすることで中の空気を抜き、真空状態にできる。