ロマンの力
台中の旧市街地、台湾大道と市府路の交差点に来た。真っ直ぐ行けば台中駅があり、通りの一つ先の角を曲がれば日本統治時代の行政の中心「台中州庁」がある。
ここに建つ中央書局は3階建ての古い建築物で、外壁はクリーム色、角地の2面が窓になっていて優雅な空気を醸し出している。壁面にはレトロな書体の看板がある。
「国定の歴史古跡の指定は受けていませんが、歴史上、重要な価値があります。書店の開業が実現したのは多くの人の民族的自覚によるもので、私はこれを『ロマンの力』と呼んでいます」と話すのは中央書局の沈貞慧‧副ディレクターだ。
古今の歴史が呼応しているかのようだ。かつて、海外から帰国した荘垂勝や葉栄鐘ら知識人と、台湾中部の有力者である大雅張家、霧峰林家などが、文化芸術への情熱と民族への貢献という使命感から、資金を集め、中央書局を創設した。それから一世紀の後、今度も中部の文化人が力を合わせて再開にこぎつけたのである。
「中央書局を引き受けたのは偶然であり、また必然の縁でした」と張杏如‧代表は言う。最初は台中在住の作家‧劉克襄と東海大学建築学科助教授の蘇睿弼から、かつての中央書局の建物が取り壊されるおそれがあり、借りることはできないだろうかと相談されたのが始まりだった。
同じく台湾中部出身の張杏如もこの書店に多くの思い出があったが、現実の問題が立ちはだかる。古い建物の修復には巨額の費用がかかり、建物を借り受けて修復したのでは割に合わない。そこで企業家である夫の何寿川とともに上善人文基金会を創設し、基金会の名義で建物を買い取って修築することにしたのである。
資金を集めて創設された中央倶楽部。写真は1927年に発行された株券である。