上では堂々、下では涙
寒単爺が下りてくると、商家はお捻りを包むが、金葉銀楼では自前の純金のメダルを贈る。
よく見ると、下りてきた寒単爺は体も手も震えており、しかも上半身裸に爆竹を浴び、赤くなったり血が滲んでいて痛そうである。
身体髪膚はこれを父母に受くというが、10代の少年が怖いもの知らずで寒単爺に扮し、慌てた両親が来てみると、息子が無情の爆竹に包まれている。父親はうなだれて涙ぐみ、母親は泣き叫ぶ。この行事で、一番辛い所である。
今年は爆竹の量が多い上、20代の寒単爺が多く、我慢しきれないらしい。「去年は一人でやった分が今年は三人です」と金葉銀楼の店員は話す。
今年、金葉銀楼が呼んだ寒単爺は何周もせず下りてしまい、職人さんが金のメダルを打つのが間に合わなかったという。
結局、金葉銀楼は11枚のメダルを贈った。最後に登場した華さんは経験もあり、もう代りがいないので最後まで耐え抜いた。きっと睨んで輿に立ち、周囲を睥睨し、どれだけ爆竹を投げられてもガジュマルの枝を使わず、満場の喝采を受けた。
下りてくると、玄武堂の係が駆け寄って消毒薬を振りかけ、親指を立てて褒め称えた。
金のメダルを受けて腰を下ろすと、恋人が何事もなかったようにタバコに火をつけて手渡す。最初に輿に立った時は見ていられなくて大泣きしたが、今では慣れてしまったという。
なぜガジュマルの枝を使わないのか聞くと、ビンロウで赤くなった口を開けて「意地だよ。その方が決まるからね」と言いながら、真面目な顔に戻り「逃げるぐらいなら初めからやらない。やるなら意気だよ」ときっぱり言う。なるほど、その道の者である。これなら、つれて来た兄さんの顔も立つというものである。
以前は商家が用意する爆竹の種類はさまざまで、事故が起きることもあったため、今は玄武堂が一括管理し「排炮」が使われている。