
台湾はクロレラの培養に最適であり、クロレラは台湾の輸出製品の「隠れたチャンピオン」である。
「スーパーフード」とは、健康に良く栄養密度が高く、特定の病気を予防したり緩和したりできる食品を指す。クロレラは、何年かおきにメディアで取り上げられるスーパーフードで、タンパク質、核酸、クロロフィル、ビタミンB12の含有量が植物界で最も高い。更に、人体で合成できない8種類の必須アミノ酸、食物繊維、クロロフィル、ルテイン、核酸、ビタミンB9、カロテノイド、多価不飽和脂肪酸などが豊富である。しかし、クロレラが台湾の輸出製品の「隠れたチャンピオン」であることは、あまり知られていない。
クロレラは、信じがたいことだが、32億年以上前(現在、カンブリア紀の藍藻の層状構造の化石が発見されている)から地球上に存在しているが、1890年、オランダの学者マルティヌス・ウィレム・ベイエリンク教授によって、初めて湖水から発見された。この水中浮遊性の微小植物は、人類によって培養され、スーパーフードとして奇想天外な旅に出ることになる。かつては、世界の食糧不足の代用品、全ての栄養素を完備した健康食品、宇宙飛行士の食料源として、あるいは未来の魚肉タンパク質の代替品として取り上げられ、更に現在では、完全菜食主義者向け藻類オイル以外に、疑似ガソリンとして作られたクロレラ油、クロレラ電池や食べられる包装材として、挙げ句は、建物の壁材として注目されて来た。こうした八面六臂の活躍で分かるように、この小さなクロレラは、地球の生態系の進化を支えて来ただけでなく、現在と未来において人類にとって最も親しみのもてる水生微小植物なのである。

台湾緑藻公司は、1964年に創業され、当初生産されたクロレラは、全て日本に輸出された。クロレラは、後にスーパーフードに転身し、現在、30カ国以上が台湾緑藻公司のクロレラ製品を選んでいる。(台湾緑藻公司提供)
見えないクロレラこそ「隠れたチャンピオン」
台湾は、早くも1960年代にクロレラの培養を開始し、その後日本の技術援助を受けて、クロレラの主要な輸出国となった。その全盛期には、台湾で30社以上のクロレラ大量培養業者があり、世界のクロレラの90%を供給し、2006年でも、世界のクロレラの80%が台湾から輸出されていた。60年を経た現在、業界も動きがあり、台湾、中国、ドイツ、日本、インドがクロレラの主要な生産国となっているが、2023年5月、台湾経済部・技術処が発表したデータによると、台湾のクロレラの輸出は、世界の45.05%(928.56トン)を占め、依然として第1位の座を守っている。中華穀類食品工業技術研究所によると、2021年、台湾のクロレラ生産額は、約7億台湾元に達している。
現在、台湾には5〜6社のクロレラ大量培養メーカーがある。その内で「台湾緑藻公司」は、1964年と台湾で最も早い時期に設立されている。設立当初、同社は、クロレラの品種選択およびクロレラの清浄培養技術の向上を支援するために、日本の徳川生物学研究所所長・武智芳郎博士を台湾に招聘した。「日本の学者は、早くからクロレラの栄養価を知り、長年クロレラ培養の研究に携わってきましたが、日本の寒冷な気候のためにクロレラを培養することは容易ではありませんでした。ましてや、年間を通じてクロレラを大量培養することは不可能でした。日本人科学者たちは、台湾が豊富な日照量、良好な気候、純粋で汚染されていない水に恵まれていて、クロレラの培養に非常に適していることを発見したのです」と台湾緑藻公司研究開発部部長の宋元嬈は言う。台湾緑藻公司の初期に生産されたクロレラは、全て日本に輸出された。日本は、クロレラ市場が成熟しており、多くの人々がクロレラを食用することの利点を知っていたからだと言う。その後、クロレラが世界的なスーパーフードへと転身してからは、超ハイスペックを求める食品安全性検査、理想的でクリーンな環境下の培養という台湾のクロレラの品質の利点が多くの国で認識され始め、台湾のクロレラ製品は、すでに30カ国以上で受け入れられてきた。

クロレラの直径は、わずか2〜8マイクロメートルで、その細胞分裂をはっきりと見るためには、600倍以上に拡大できる顕微鏡が必要となる。
実験室から生まれた華奢な水生微小植物
「クロレラは、創業時、実験室のシャーレの中で細胞群として培養されていました。1日24時間、光源から光が照射され、4℃の温度が維持されていなければなりませんでした。2週間後、一つの細胞が10億以上の細胞に分裂します」と宋元嬈は語る。宋によると、健康食品として市販されている緑藻類のほとんどは肉眼では識別できないクロレラで、直径わずか2~8マイクロメートルしか無いため、細胞の外観や分裂をはっきり見るためには、顕微鏡を使って600倍以上に拡大する必要がある。細胞小器官を観察するためは、更に1,000倍までの拡大が必要だという。
クロレラを培養するには、シャーレから試験管、小から大のフラスコへと移植し、21日後に、屋外のプールに移して培養を続ける必要がある。屋外のプールは、すべてのクロレラにまんべんなく日光を浴びせることができるように、実際には非常に浅く、わずか35〜45cmの高さしかなく、それだけでなく、各細胞が光合成を行うことができるように、水をかき混ぜ回転させ続けるためにアーム状の撹拌装置を使用する必要がある。直径45mの最大のプールの場合、クロレラ細胞は2,400兆個に達すると宋は言う。
8週間後、クロレラは収穫できるようになる。遠心分離機で水分と不純物をろ過し、更に300℃の高温で乾燥させて粉末にし、最終的に錠剤にする。「クロレラの培養プロセスは、他社と変わりはありませんが、弊社の場合、何回も品質管理チェックがあり、金属やその他の不純物による汚染がないことを確認するために、毎年定期的に日本食品分析センターにサンプルを送って検査してもらっています」と宋元嬈は言う。

クロレラは、スーパーフードとして注目されており、タンパク質、核酸、葉緑素、ビタミンB12の含有量は、植物界で最も高い。(台湾緑藻公司提供)
高い栄養価
クロレラは水中の植物で、陸上の植物と同じように光合成をするため、同じような栄養素を持っているが、特徴的なのは、クロレラの細胞内のタンパク質が60%と高いことだ。100gのクロレラは同量の牛乳と比較すると、タンパク質が20倍と驚異的な数値を示す。
そのため、第二次世界大戦後のベビーブームによる、急激な人口増加に伴って食糧危機が生じた1950年代に、米英仏ソ連などで、タンパク質の補給源になることを期待し、クロレラが研究された。日本では、東京大学教授で植物学者の田宮博もこの研究に参加し、その後、徳川生物学研究所でクロレラの大量培養計画が実施され、1957年にはクロレラ研究センターが設立され、クロレラの商業化への道が開かれた。
しかし、クロレラの細胞壁は3層と非常に厚く、野生のクロレラを迂闊に食べると体内では消化吸収されない。「弊社は、クロレラの細胞壁を高圧で破裂させる装置のドイツの技術特許を取得しています。これにより、トウモロコシの硬い殻を破裂させポップコーンにするようにクロレラを破砕して、人間が食べて消化できるようにしています」と宗は言う。

クロレラは、実験室のシャーレで一つの細胞群として培養され、徐々に試験管、小から大のフラスコに移植され、更に光合成のために屋外のプールに移植される。収穫後、遠心分離機で水分や不純物をろ過し、更に300℃の高温で乾燥させて粉末にし、最終的に錠剤にされる。
クロレラのエネルギーは侮れない
台湾緑藻公司は、健康食品の研究開発を行なうだけでなく、一般市民の利益のために他分野におけるクロレラの開発利用を願って、積極的に学界と協力している。同社は、創業以来、日本の北里研究所教授の梅沢巌らと「クロレラ由来酸性多糖・クロンAが有する感染抑制作用や制癌活性」について共同研究するとともに、1980年、中山医学院(現在の中山医学大学)および国立台湾大学医学部と「ラットの血清コレステロールに対するクロレラの影響」について共同研究を行った。2008年、国立台湾海洋大学食品科学科と「クロレラペプチドの血圧降下作用」について共同研究開発を行い、2018年、台北医学大学と「スポーツ選手における運動後のクロレラの補充による運動後の筋肉疲労の回避と回復期の筋肉の損傷の軽減」について共同研究した。
こうした中、1998年、台湾で大規模なエンテロウイルス感染症が発生した。140万名もの児童が手足口病と口峡炎に感染し、合計405名が重度の合併症を患い、78名の子どもたちが不幸にも亡くなった。当時、エンテロウイルスに対する特効薬はなく、社会パニックが起きた。国立台湾海洋大学食品科学科海洋センター特任教授の呉彰哲は、「エンテロウイルス71型は、細胞膜を持たないため、アルコールが効かず、漂白剤で菌を殺すしかありません。これは、子どもたちには大きな負担となりました」と語る。2009年、呉は、台湾緑藻公司からの委託研究により、クロレラの多糖体がエンテロウイルスを包み込み、それ以上の細胞感染を阻止することを発見し、ここで、クロレラが再び各方面から脚光を浴びることになったのである。

クロレラは、便利な経口健康食品として各国に輸出されている。
今後の活躍の場
宇宙計画が活況を呈していた1970年代、NASAは、クロレラを食料源、光合成ガス交換源、排泄物処理源として宇宙に持ち出した。当時、アメリカの環境工学の専門家もクロレラを廃水処理に応用しており、廃水処理の発酵によって発生するメタンが再生可能エネルギーの良い供給源になるかもしれないことが分かり、研究が盛んになった。それだけではない。世界的な人口増加が引き起こす食糧不足は、解決困難な問題であった。オーストラリア・クイーンズランド大学の研究チームは、もし2050年までに海洋に海藻養殖場を開発でき、海藻が人間の食事の10%を占めるようになれば、1億1,000万ヘクタールの耕作地不足を劇的に緩和できることを発見した。しかし、海藻に含まれるタンパク質はわずか30%であるため、タンパク質を60%も含むクロレラがより重要な役割を果たすという見方もある。
炭素固定は、現在ホットな話題である。工業技術研究院は、現在、微細藻類を炭素固定や付加価値用途に利用する研究を行っている。産業から排出される二酸化炭素を利用して微細藻類に炭素を固定し、そこからバイオマス燃料や高付加価値製品を抽出しようとしている。 しかし、藻類を炭素固定に利用する技術はまだ成熟しておらず、藻類を炭素吸収源として利用できずにいる。
微細なクロレラは、地球上で最も早く誕生した生物の一つであり、陸上植物の始祖とも言われている。クロレラは、地球の食物連鎖の源であり、地球の問題を解決するための基礎となるのである。台湾のクロレラ産業は、60年間右肩上がりの成長を続けてきた。将来的な発展の可能性も無限であり、人々の注目を受け続けるだろう。

呉彰哲によれば、台湾は、四方を海に囲まれており、大規模な海藻養殖を展開させることができ、将来、海洋炭素吸収源を開発することができる。これは台湾の海洋環境を利用する理想的なモデルとなるだろう。

海外の研究によれば、もし2050年までに海洋で海藻養殖場を開発でき、海藻が人間の食生活の10%を占めるようになれば、1億1,000万ヘクタールの耕作地使用を大幅に軽減でき、未来の藻類の最良の応用例となると言われている。

海草は、森林が1 平方キロあたりで吸収する炭素量の2倍を吸収できるとみなす学者もいる。緑藻類の一つである微細藻類のヘマトコッカス藻を利用すれば、その効果は植樹による炭素固定の21倍になるという。