おじさんたちのハッピー逆襲
出版事業に加えて、簡志忠は公益事業にも力を尽くし、数多くの団体を援助してきた。
父を肝臓がんで亡くしたため、肝臓病防止基金会のボランティアを務め、また徴兵制がある台湾で信仰のために徴兵を忌避する若者が刑務所に服役する問題に対して、代替兵役制度を推進してきた。
また呉念真監督や作家の小野と共に、紙風車319児童芸術運動を開始し、2005年から児童劇団を引き連れて、台湾の319市町村の巡回公演を行った。芸術で子供たちの視野を広げるこの運動は、文化芸術界から「おじさんたちの逆襲」と呼ばれた。
台湾を歩き回る中で、簡志忠は台湾社会において祖父母に育てられたり、片親家庭の子供が数多いことに気づいた。放課後に面倒を見る家族がなく、勉強が遅れ、中退していく。そんな子供を見て、簡志忠は放課後児童クラブのための情報交換の場となる快楽学習協会設立を決意した。曁南大学元学長の李家同教授が設立した博幼基金会にプラニングと教員訓練の協力を仰ぎ、呉念真監督に理事長就任を依頼した。計画を聞いた呉真念は、それは一生の大事業だと驚いたが、結局簡志忠に説得されたという。
生活はシンプル、内心世界は壮大
1990年以降、台湾の出版業界は香港資本による買収がブームとなった。国内の上場企業からも、簡志忠に円神グループの高額買収が打診されたが、彼はどれほど高額でも売らないと答えた。上場企業は生産量と工数重視なので、売却は自分が主張する幸福の価値を裏切ることになるからだ。
簡志忠にとって、出版とは地位や利益を求めるものではない。出版を生業とする者の生活はシンプルに見えるが、内心は壮大である。人は働くために生きるのではなく、生きるために働くのだと信じている。
来年、円神グループは設立30周年を迎えるが、円神が社会の必要性に応えながら、100年企業となることを望んでいる。
「台湾では観世音菩薩が龍に乗って世を救うと言いますが、私はこの目で菩薩を見ましたよ」と簡志忠は呵呵大笑し、台湾こそ菩薩の社会なのだと言う。メディアがどこかの天災を伝えると、普通の人が助けの手を差し伸べ、巨額の寄付が集まる。
出版であれ公益活動であれ、簡志忠はそんな菩薩の傍らで力を貸し、この社会の必要性に応えて、より幸福になる手助けをしている。