台湾とニカラグアを結ぶ専門家の貢献
ICDFが海外に派遣するボランティアにおいて、女性の姿は早くから出現し、すでに必要不可欠な役割を担ってきた。
花蓮の門諾病院寿豊分院で栄養士として勤務していた李欣庭は、2014年にニカラグアの小児火傷救護協会(APROQUEN)に赴任した。
台中の中国医薬大学栄養学科を卒業した李欣庭は、病院勤務の4年を経てから、しばらく休んで自己の充実を図ろうと思った。その時、ICDFの海外ボランティア募集を知り、対外援助に応募したのである。
出発前の李欣庭はニカラグアについて何も知らず、スペイン語もできないし、役に立つかと思った栄養学の専門も、派遣先機関の性質が異なるため余り役に立たなかった。台湾で担当していたのは長期高齢者介護だったが、APROQUENの患者は児童が多数を占め、重傷火傷の患者が多い。対象の年齢層も症状も大きく異なっていた。
そのため専門家として貢献できるチャンスは少なく、派遣先でも現地の栄養士の回診に付き添い、資料整理するだけだったが、李欣庭はあらゆるコミュニケーションの機会を逃さなかった。児童の栄養問題にぶつかると台湾の友人に助けを求め、翻訳ソフトでスペイン語に翻訳しながら派遣先の栄養士とコミュニケーションを図った。
時間をかけて第一線で観察を続けると、様々な疑問が浮かんできた。それは国情の違いなのか、専門分野のためなのかと、学んだことと現場で見たことの差異に疑問を抱いていた時、アメリカのジョンズ・ホプキンンス病院の医療チームが訪れ、彼らも同じような疑問を抱いていることを知った。李欣庭はようやく、数カ月の間の判断が間違っていないことを確認できた。
彼女は観察で得た知識をまとめ、APROQUENの事務長に改善プランと共に報告した。
そのプランは大きく三つの部分で構成されていた。第一は、スタッフの栄養学専門知識を強化し、適時に評価する。第二は複雑な診療評価表を簡素化して第一線のスタッフの記入意欲を高め、病状管理を実施する。最終的にAPROQUEN向けにシートにまとめて周期化した栄養レシピを作成した。栄養士は患者の必要に合わせ、摂取カロリーや食事法の条件に合った適切なレシピを選択できる。これによりメニュー設計の時間を短縮でき、調理を担当する厨房は有効にコスト管理できるようになった。
最初は単なるアシスタントだった李欣庭は、看護介護部門の調整担当になっていった。当初の役割設定とは異なるが、4年にわたる門諾病院での経験が役に立った。門諾病院寿豊分院では、本院で訓練を受けてから分院に戻り、担当部署を取りまとめて業務を推進していたので、こういった業務統合の役割には慣れていたのである。
APROQUEN最初の台湾人栄養士として評価された李欣庭のおかげで、派遣先の機関のスタッフは台湾に関心を抱くようになった。
ニカラグアの人々がセンシティブな台湾海峡の問題を尋ねてくると、李欣庭が答えるまでもなく同僚のスタッフが説明してくれる。2015年に台湾のテーマパークで粉塵爆発事故が起き、300人近くが火傷を負ったが、ニュースを聞いたAPROQUENでは関心を寄せ、台湾の駐ニカラグア大使館や火傷患者をケアする台湾のNPO陽光基金会と連絡を取り、援助を申し出てくれた。李欣庭がいたことで、両国の友好が一層深まったのである。1年の派遣期間が終わる最後の日に、同僚スタッフはサプライズ・パーティを開いてくれた。同僚の誕生パーティだと思って参加した李欣庭は、それが彼女のために企画された文化交流デーだったと知ったのである。台湾に戻ってから日が経つが、李欣庭はこの時のことをいつも思い返すという。
李欣庭(一番右)はニカラグアの児童火傷救護協会に赴任し、その専門能力と熱意で台湾とニカラグアの友好に貢献した。(李欣庭提供)