世界をきみの目の前に
学校への出張サービスを行うのは移動図書館車だ。国立公共情報図書館の統計によれば公立図書館が有する移動図書館車は2022年に60台あり、ほぼ全ての県と市に配置されている。その歴史を遡れば、台湾初の公立図書館「台湾総督府図書館」が設立された当時の「巡回書庫」に辿り着く。
我々は桃園市立図書館の移動図書館車とともに中壢の龍岡小学校へやって来た。車を停めて車体の両サイドを開き、カウンター代わりの机と椅子を置く。さらに子どもたちがゆっくり本を読めるよう小さな椅子を置けば準備完了だ。トラックはまるでトランスフォーマーのようにミニ図書館に早変わりして子どもたちを迎える。
子どもたちは「わあ、かいけつゾロリだ!」、「これ読みたい」、「本が借りられるんだ!」と大興奮して本を選び、椅子に座ってページを繰り始める。3年生の子はカップケーキのレシピ本を借り、もうすぐ自分の誕生日だから家で両親と一緒に作りたいと語り、もう一人の子は、全巻読破したいと毎回、三国志演義を借りる。
移動図書館車は学校だけでなく、僻地のコミュニティー、老人ホーム、刑務所や鑑別所なども訪れるし、他のイベントに合わせて行くこともある。たとえば「栄民之家(身寄りのない退役兵士の施設)」が地域住民を招待して行うイベントや小規模な演劇活動、手品ショーなど、人が集まるイベントを利用して本を届けているのだ。
本の中に広がる広い世界を各地の片隅に届けるため、図書館車の待機中には、次に行くべき所が探し出される。桃園市立図書館が2022年から協力している敦品中学もその一例だ。
法務部矯正署に属する敦品中学は、少年矯正施設としての学校である。生徒たちの多くは正規の学校教育の中で落ちこぼれた子で、郭宗裕校長は生徒たちが「自分にもう一度学校から始める機会を与える」ことを望んでおり、読書はそのカギとなると図書館車の来校を喜んでいる。
読書によって子どもたちは興味を持ったことを探求し、視野を広げることができる。ある子はレシピ本を見て家族に作ってあげたいと思い、将来はお店を開きたいという夢を描いていると鍾廷葳先生は語る。読書イベントで読書から得たものをテーマに作文を募ると、心理学の本を読んだある子は「自分を信じ、自分を褒める」ことを目標にしていた。郭校長が語ったように「読書で得たものは頭の中にあって、誰にも奪えない」のだ。
子どもたちが励まされる機会を作ろうと、敦品中学では読書イベントを行い、読書から得たものをテーマに作文を募集した。