
昨年末、郝;龍斌氏と陳菊氏がそれぞれ台北市長と高雄市長に就任した。政治面から見れば、二人の当選はここ数年の「北はブルー、南はグリーン」という両陣営の支持基盤を示しているが、都市競争という点で考えると、これは両市の新たなスタートでもある。
ここ数年、台北市と高雄市は地方交付税の分配や、ランタンフェスティバルや国慶節花火大会の開催地をめぐって争奪戦を繰り広げてきた。国内の資源だけでなく、海外からの投資や観光客の誘致、都市イメージや都市外交などの面でも競っている。1994年に台北・高雄市長の直接選挙が始まり、市長は都市マーケティングに力を注ぎ始めた。市長は支持率を気にする一方、世界経済フォーラムなどが発表する世界都市ランキングからも目を離せない。
これはグローバル化の中での都市の焦燥と言える。グローバル競争においては都市の影響力は国家のそれを超え、都市間競争は激しさを増している。投資環境や旅行などのランキングに名を連ねられれば、世界に知られ、人と物と金が集まってくるからだ。
選挙が終わり、新しい市政が始まったが、台北市と高雄市は互いがライバルなだけではなく、より視野の広いビジョンが求められているのである。
2005年1月24日、高雄市旗津は爆竹の音に包まれた。この日、全国で初めての「マルチメディア下水道システム展示館」がオープンし、開館式には当時の謝長廷市長が笑顔で出席した。
出席者100人余りの開館式は決して盛大とは言えないが、実はこれは謝長廷市長在任中、市民から最も評価された業績であり、また中央政府が高雄市に資源を投入した成果でもある。

目に見えない大きな一歩
昔から、高雄市民は「水」に悩まされてきた。下水道の普及率が低く、前鎮河と愛河の上流には養豚場が密集し、大規模な重化学工業地帯があり、市民は水道水を安心して飲むことができず、愛河に近づく人もいなかった。
1997年末に就任した謝長廷市長は、愛河の汚染を取り除いて整備すると同時に「目に見えない」地下の下水システムの整備を主たる目標として掲げた。
当初、高雄の汚水下水道普及率は6%だったが、謝長廷氏が行政院長就任のために退任する2004年末には35%まで普及した。この間、中央政府は年間数十億の予算を補助し、環境保護署は愛河と前鎮河上流の養豚場を取締り、愛河の水質はしだいに改善されていったのである。
「中央政府が特に高雄に力を注いだのは、民進党支持者が多い地域だからというのもありますが、環境は確かに改善されました」政治大学経済学科の林祖嘉教授は、生活環境は市民にとって最も身近なものだと指摘する。「高雄市民は長年、台北の方が上だと感じていましたが、今は自信を持ち、台北と同じレベルに立っていると感じています」と言う。
「以前グローバルな都市競争力と言えば、台湾では台北しか候補に挙がりませんでしたが、今では高雄も候補に挙がります」と中山大学公共事務研究所の郭瑞坤助教授は言う。高雄の産業は台湾経済発展に重要な役割を果たしてきたが、今は生活環境も改善し、工業都市のイメージを脱して現代的都市へと生まれ変わった。
2006年に米バックネル大学と中国社会科学院が発表した「世界都市競争力レポート」では、台北が華人圏では香港に次いで48位、高雄は77位だった。
このレポートは75の指標を用いて世界の110都市の人材、企業経営、生活環境などの競争力を出したものだ。注目すべきは、高雄の都市環境が14位、消費型サービス競争力は2位と、いずれも台北市の16位、3位より上にランクされた点だ。
スタートは台北より遅れたが、都市計画にしたがって建設されたので両者の差はもともと大きくない、と高雄大学都市計画学科の曾梓峰助教授は指摘する。高雄では1万人当りの公園・緑地面積が5ヘクタール近くあり、これは台北の2倍である。

港湾都市の主張
台北と高雄の最も顕著な相違は政治面に現われると林祖嘉教授は言う。選挙で明らかになる「北はブルー、南はグリーン」の違いだけでなく、アイデンティティの高まった高雄市民は北部の意見に敢えてノーと言う。こうした心理が両都市の競争を激化させている。
しかし郭瑞坤助教授は、過去8年の高雄と台北の施政重点は非常に似ていると指摘する。台北出身の謝長廷市長は愛河を整備して城市光廊を作り、工業都市のイメージを払拭して、中産階級が河岸でくつろげる都市へと変えた。台北では、馬英九前市長が国際マラソン開催、市民スポーツセンター設置、文化フェスティバル開催などを通して健康的な都市のイメージを打ち出してきた。
郭助教授によると、アジア太平洋地域の百万都市の中で、ソウルや北京、上海は「大建設」で注目されているが、台北と高雄は異なる方向に向っているという。工業化と経済発展を経験してきた台北と高雄は、経済発展のみを重視する建設戦略を修正し、人間性や文化などソフトな面を充実させようとしているのである。
だが、北京ではオリンピック競技場が次々と完成し、ソウルは河川整備に成功し、香港ではディズニーランドがオープンするなど、東アジアの大型都市は大規模建設によって話題をさらっており、台北や高雄の繊細な都市運営は注目されにくい。
さらに現実面を見ると、都市を向上させるには経済の支えが必要である。しかし、対岸の港湾が発達して高雄港の成長は停滞し、産業競争力は低下しつつある。

工業都市のイメージを払拭した高雄市は発展の重点を観光とレジャーに置いている。写真は60年の歴史を持つ六合ナイトマーケット。ここを訪れなければ高雄に行ったことにならないと言われる代表的な観光スポットだ。
困難に直面する兄弟
深圳;などに港が完成してから、それまで長年世界3位のコンテナ港だった高雄港は今では6位まで下がり、その停滞は高雄市の経済にも影響している。2005年、高雄の平均失業率は4.2%、東部の花蓮などと並んで全国で最も高い。世帯別の可処分所得を見ると、高雄は全国平均の89万元よりやや高い96万元で、台北市の124万元との差は大きい。
ここ8年、台北市と高雄市は失業率の上昇、世帯所得停滞という苦境に直面している。馬英九市長と謝長廷市長が就任した1998年、失業率は台北が2.6%、高雄が3.4%だったが、2005年にはそれぞれ3.8%と4.2%に上昇した。近年は世界経済が好調なので産業の景気は悪くないが、台湾の二大直轄市は経済エネルギーを生み出して、周辺の発展を促さなければならない。

世界的に巨大都市化が潮流になる中、台北市と高雄市は規模の面では劣るものの、アジア太平洋地域の重要な位置にあり、他との協力関係を強化すれば競争力を高めることができる。写真は台北市の松山空港。
二大都市の微妙な関係
世界を見ると、台湾の台北と高雄のように、一つは首都、一つは全国最大の工業港湾都市という二大都市の競争は珍しくない。
日本では大阪人は東京人のスタイルが合わないと言い、フランスでは港湾都市マルセイユとパリの気質が合わないと言う。「マルセイユと高雄の人は似ています」と台湾在住フランス人のフェレーロさんは言う。どちらも港町らしく豪快で、何事も首都ばかりが注目されるのに不満を感じている。
しかし、中央政府も台北市も高雄市も、互いが主要なライバルではないことを認識しなければならない、と林祖嘉教授は言う。
世界の都市間競争に目を向けると、以前は国家競争力の評価をしていた「世界経済フォーラム」が2004年から都市競争力も発表するようになった。百万都市が密集する東アジアにおいて「中国の都市興隆が台湾の都市にもたらす影響」を林祖嘉教授は観察しており、2005年に初めて「両岸四地」を基礎に、華人圏の都市競争力評価を行なった。
「これらの都市競争において最も顕著な現象は代替効果を持つことです」と林教授は言う。例えば香港はすぐ隣に出来た深圳;港に貨物を奪われ、2002年に大打撃を受けた。また上海がアジア太平洋地域の金融センターとしての地位を高める中、香港と上海の金融業の関係も注目される。
香港は現在の地位を保てないことに不安を抱いているが、深圳;も決して安泰ではない。深圳;は当初「特区」に指定されたことで大きく発展したが、今では中国沿海都市の多くが開放されている。これらの都市は中央から権限を授けられ、税の減免や優遇などを次々と打ち出して企業を誘致しており、市長の一声で新たな開発区を区画できる。こうした「諸侯経済」の中では特区の深圳;も特別な存在ではないのである。
中国の新興都市に比べると、台北は大部分が市街地で、開発の余地があるのは南港と関渡の一部だけだ。将来的に基隆港、台北港、台北県の町村などと協力できるかどうかが競争力を左右する。
高雄港の鍵を握るのは自由貿易港区だと曾梓峰助教授は指摘する。自由貿易港区が予期した成果を上げていないのは、三通が実現せず、企業の意欲が低いこと。また小港空港の規模が小さくて国際便を増やせないことがあり、港と空港を一体化させることが必要だと言う。高雄港の貨物取扱量に標準コンテナ1000万個の限界があっても、数は問題ではなく、価値が問題なのだという。
港と空港を結び、三通が実現すれば、中国に投資している企業も一次加工品を台湾へ運んでさらに加工し、台湾から出荷することができる。そうなれば技術の流出が防げるだけでなく、地元にも経済効果をもたらす。これが本来の高雄自由貿易港区の計画なのである。しかし、台湾海峡両岸の敵意は解消せず、三通が実現しないため、成果も限られている。

文化は都市発展の力である。華人圏随一の自由で多様な創造力が台北に他にはない競争力をもたらしている。
不安のない者はいない
世界経済フォーラムや台湾工商建研会、中国社会科学院などのランキングで台北は華人都市のトップ3に名を連ねているが、その優位性は失われつつあると林祖嘉教授は指摘する。アジア太平洋地域の多くの都市が発展を続けており、その中で台北と高雄は国際的な位置づけが際立っておらず、顕著な投資もない。重要なのは、今は「巨大都市」の時代であり、規模が競争力を意味するようになっていることである。
中規模都市も特色を打ち出すことはできるが、国を代表する大都市には勢いがなければ「勝ち組」にはなれない。
中国は国が大きすぎるため、市長の行政権を拡大し、企業誘致などに関するすべての権限を授けている。台湾は中国ほど大きくないが、政府の組織が複雑で、市長の権限は非常に限られていると林教授は指摘する。

生活の質は向上したが、台北も高雄もオフィスビルの賃貸料は低下しており、産業発展にはまだ努力が必要だ。写真は台北市信義計画区の世界貿易センターと台北101。
ランキングのさまざまな解読
台北と高雄は行政区の規模では他の都市にかなわないが、北宜高速道路や高速鉄道、高雄MRTなどの開通による後背地の拡大が有利になると逢甲大学都市計画学科の劉曜華助教授は指摘する。台北市の生活圏は、農業レジャーを中心とする宜蘭からハイテクの新竹や桃園まで拡大している。
一方、年間生産高が2兆台湾ドル近い南部サイエンスパークと路竹サイエンスパークができ、従来型産業が集中していた高雄地区もハイテク産業を持つようになった。この点で、港湾と金融サービス業だけの香港やシンガポールより、台北と高雄の方が有利だと劉曜華助教授は言う。
問題は、どうすればこの優位性を発揮できるかだ。学者たちは、当面の急務は、市の行政指揮権の調整だと指摘する。
年末に高雄ではMRTが開通するが、曾梓峰助教授はMRTレッドライン最北端のR23橋頭駅前の広大な土地の利用方法が決まっていないと言う。高雄を南北に貫くレッドラインが開通すれば、本来は151平方キロの高雄市が高雄県橋頭郷と一続きになる。
橋頭郷だけではない。「高雄市と高雄県と屏東県」の一体化は、もともと民進党の主張でもあると曾梓峰助教授は言う。また、台北は台北市と台北県の整合の他、桃園と新竹のハイテク製造力と一体化してこそ、さらに競争力を高めることができる。
劉曜華助教授は、台湾は三大都市圏を中心に発展するべきだと指摘する。北部は台北を中心に宜蘭、基隆、桃園、新竹を合わせると人口は950万人、ベルギーの規模に相当する。中部は台中市を中心に5つの県と市を合わせるとシンガポールに匹敵する。南部は嘉義、台南、高雄、屏東を合わせると人口は700万人で香港に匹敵する規模になる。
劉助教授は、将来的に行政区域区画法を改正するならば、台北市と高雄市と台中市に、近隣の町村を併合するフレキシブルな権限を与えるべきだという。
だが、台湾の規模で国際的大都市を複数持つ必要があるのか、という点では意見は分かれている。しかし、政治的には南北のバランスが求められており、高雄はすでに頭角を現し始めている。両市が国内では互いに差別化を進め、対外的には共に発展していくというのは、現実的な方法だろうと曾梓峰助教授は言う。

台北101と高雄85。台北市と高雄市はライバルだが、アジアの他の巨大都市との競争に望には協力する必要がある。
鍵となるリーダーシップ
都市の影響力が国家のそれを超える時代となり、傑出した都市指導者は、国内ばかりか世界的なスターとなることもある。
例えばパリのデラノエ市長が挙げられる。同市長は、長年市民を苦しめてきた交通渋滞や汚染を解決したことで知られる。
以前、パリの街はいたるところに犬の糞があり、誰も解決できないと思っていたが、市長はそれも解決した。デラノエ氏は百年来で初めての左派出身のパリ市長だが「誰もできなかったことを成し遂げた」ことで、その指導力が高く評価され、フランス国内だけでなくヨーロッパ全体から注目される政界のスターとなった。
市の規模が大きくなるほど問題も複雑になり、市民は辣腕の市長を求めるようになると林祖嘉教授は言う。陳水扁総統も台北市長在任中の実行力が支持を受け、総統へと登りつめた。
新たに台北市長と高雄市長に就任した郝;龍斌氏と陳菊氏はいずれも閣僚を務めた経験があり、鮮明なイメージを持つ政治家だ。
しかし二人に課せられた任務は決して容易ではない。アジアのライバル都市はいずれも力をつけてきており、周辺自治体との協力が求められる中、上には中央や法令の制限があり、下には民主主義の多様な民意がある。都市間競争が激化する時代、彼らの指導力が試されることとなる。
台北市 | 高雄市 | |
---|---|---|
人口 | 263万人 | 151万人 |
面積 | 272平方キロ | 151平方キロ |
世帯収入(2005年) | NT$1,514,069(全国1位) | NT$1,163,926(全国5位) |
失業率 | 3.9%(全国最低) | 4.2%(全国最高) |
完成間近の重要交通建設 | MRT内湖線・信義線 | 鉄道の地下化 MRTレッド・オレンジライン 新台17号線 |
重要建設 | 南港エコノミックパーク | 流行音楽センターなど多数 |
大型国際イベントの予定 | 2007年ウィキメディア国際カンファレンス | 2009年ワールドゲームズ |
環境問題 | 市街地の飽和 | 後勁第五ナフサ工場の移転 1人当り二酸化炭素排出量世界一 |
ネット建設 | 無線LANの人口カバー率90% | 無線LANの人口カバー率50% |
産業 | サービス業が8割を占める | 製造業・重工業・港湾 |
栄誉 | JiWireが台北を世界最大の無線ブロードバンド都市と認定 | |
競争力上の不安 | 産業発展のスローダウン 外資系企業本部の流出 |
産業発展のスローダウン 人材資源の高齢化 |
競争力上の強み | 政治経済の中心 華人文化都市 インフラの完備 |
中央からの支援 「三通」後の自由貿易港 |
資料整理:李国盛 |
評価機関 | 発表時期 | 台北市 | 高雄市 | 他の華人都市 | 他のアジアの都市 | |
---|---|---|---|---|---|---|
都市競争力に関する国際フォーラム(世界110都市) | 中国社会科学院および各国の学者 | 2006年12月 | 48 | 77 | 香港(19) 上海(69) 北京(70) |
東京(11) |
両岸四地都市力調査(アジアの44華人都市) | 台湾工商建研会および 遠見雑誌 |
2005年10月 | 1 | 11 | 広州(2) 北京(3) 香港(4) 上海(5) マカオ(8) |
対象外 |
都市競争力ランキング(世界53都市) | 世界経済フォーラム | 2004年11月 | 11 | 対象外 | シンガポール(1) 香港(2) 上海(25) 北京(35) |
東京(15) クアラルンプール(22) |
整理:李国盛 |

北と南とでは支持する政党も違うが、いずれも市民主義の下、市民の生活の質の向上に施政の重点を置いている。台北の現代美術館(左)と高雄の城市光廊(右)では、繊細な設計が見て取れる。

北と南とでは支持する政党も違うが、いずれも市民主義の下、市民の生活の質の向上に施政の重点を置いている。台北の現代美術館(左)と高雄の城市光廊(右)では、繊細な設計が見て取れる。

廃れていた古い公園が高雄の代表的ランドマークとしてよみがえった。「城市光廊」はコーヒーと音楽を提供するだけでなく、市民にまったく新しい経験をも提供する。