ツールの問題?
だがクラウドにも欠点はある。特に青少年が食事中もスマホを見ているという現象については、行儀が悪い、集中力がなくなるとして子供のスマホ使用を禁止する親もいる。
これについて中央研究院社会学研究所の呉齊殷・研究員は、子供が家でスマホばかり見ていて親を無視するという問題の根本はスマホではなく、もともと親子関係に問題があると指摘する。
悠識デジタルコンサルタントの蔡志浩は心理学の角度から説明する。思春期の子供は社交へのニーズが大きく、フェイスブックなどが重要なツールになっているという。
『iPhoneで別れ、フェイスブックで和解する?』の著者、20代の楊士範は次のように述べている。
親は子供から携帯電話を取り上げようとする一方で、携帯に子供の相手をさせているのである。30年前の親が、子供が食事中にテレビを見るのを禁じる一方、忙しい時にはテレビに子供の相手をさせていたのと同じなのである。人間性は変わらず、変わったのはツールだけ、と楊士範は言う。
だが、テクノロジーとそのツールは我々の予想を超えたスピードで発達している。それが人間性に影響をおよぼすことはないのだろうか。
人間性への回帰
人間の本質が急速に変化することはないが、次々と登場する新しい技術に適応していくための好奇心や学習能力といった人間性へと回帰していくと蔡志浩は言う。だが、好奇心や学習能力は、正規の学校教育で擦り減らされてしまうとも指摘する。
教育に関心を注ぐ呉齊殷によると、青少年は一日8時間も学校に縛られ、新テクノロジーの活用を自主的に学ぶことができていないと言う。「だから、スマホを使う主な目的が、フェイスブックとゲームのダウロードだけになってしまうのです」
多くの中学・高校では、携帯電話で生徒の気が散るとして携行を禁止しているが、呉齊殷は、携帯電話がメガネや腕時計のように普及した時、禁止し続けられるか、と問いかける。生徒の気が散らないような授業を教員がすればいいのだ。蔡志浩と呉齊殷は、教員はスマホを目の敵にするより、それを教材として活かすべきだと提言する。
クラウドがもたらす未来
技術の急速な発達に伴い、「世代」の定義も変わりつつある。現在30~40代の「MSN世代」にとって、3月にMSNサービスが終了するというニュースは「ツールが世代を定義する」時代の到来を感じさせる。楊士範は、以前はゲーマーと言えばゲーム機を持っている人を指したが、今はスマホやPCを持っていればゲーマーである。同様に、モバイルでネットを使う世代はクラウド世代と言える。
フィナンシャル・タイムズ元記者で『ぼくたちが考えるに―マスコラボレーションの時代』の著者レッドビーターはこう述べている。Web 2.0後の10年はクラウドの時代だが、「その次の10年、クラウド・コンピューティングは新たな化身を生む。それはクラウド文化かもしれないし、クラウド資本主義かもしれない。ネットの将来はまだわからない」と。
蔡志浩は、新たな技術が生活を変え、それによって制度も変わり、続いて新たな文化が形成されると考える。この循環は文明の蓄積だが、それでもここ数年の技術の発達は速すぎて不安になると言う。
村上春樹はペンからワープロに変わった頃、科学技術がもたらす変化は、良し悪しや、認める認めないといった問題ではなく、そこにある現実に過ぎないと語った。テクノロジーが次々と素晴らしい未来を見せてくれる時、私たちはそれを闇雲に追うだけでいいのか、それとも目的を持ってうまく活用するのか、クラウドの時代、正視すべき課題である。