
原住民と聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろう。毎年夏などに行われる彼らの祭りだろうか、それとも数百年にわたって受け継がれてきた伝統工芸だろうか。
順益台湾原住民博物館、国立台湾史前文化博物館、北投凱達格蘭文化館など、台湾には大小さまざまな原住民博物館及び文化館があり、文化や歴史、自然科学の角度から台湾原住民の軌跡の記録に努めている。
もし、まだこれらの博物館を訪れたことがなければ、一度足を運んでみることをお勧めする。豊富な展示物にふれ、原住民族についてさらに多くを知ることができるだろう。
台北外双渓にある故宮博物院と向かい合って建つ順益台湾原住民博物館は、建物自体が原住民らしさにあふれている。
最新の3Dプロジェクターと原住民の石板彫刻を融合させ、パイワン族の猟師の伝説を伝える。
個人による原住民博物館
外から見た建物は、まるで兜をかぶり、長刀を持った原住民戦士のようだ。入り口のひさしには、原住民アーティストのサクリュウ・パワワロン氏が原住民の最高栄誉の象徴である羽毛をデザインしたステンレス彫刻作品「栄耀」が掲げられている。入り口中央の高い柱にはパイワンのトーテムが刻まれ、左右にはパイワンの石板屋を模した装飾が施されている。
台湾原住民の全体像が把握できるよう、1階ホールの中央にはタッチパネルが置かれ、画面上でパイワン、ルカイ、アミ、プユマといった民族名を選ぶと、それぞれの情報が奥のスクリーンに出現するようになっている。左右の壁際には、木彫りボートと石板彫刻が置かれ、原住民の山と海の文化を象徴する。
順益台湾原住民博物館の林威城主任によれば、漁の民であるタオの漁業用ボートを陳列することで、海洋文化を表す。一方、左側の石板彫刻は、原住民の狩猟文化を象徴する。彫刻や陶芸、インスタレーションを手がけるサクリュウ・パワワロン氏に制作を依頼したものだ。
これは『狩猟前的占卜(狩猟前の占い)』と題する作品で、パイワンの巫女が狩猟の前の占いを行う様子を表す。一方、狩猟の主人公であるべき猟人は、高さ2メートルある石板の下方に小さく彫られているだけで、画面を大きく占めるのは巫女の姿だ。林主任によれば、こうした配置はパイワン族における巫女の高い地位を示している。
2~3階と地下1階の展示室は、順益博物館の常設展エリアだ。原住民の生活用品などを展示する2階には狩猟道具や陶器が置かれている。狩猟と農耕は原住民社会ではたいてい男性が受け持つので、この階をこっそり「男の世界」と呼んでいる、と林主任は教えてくれた。また、各民族の織布技法や衣類を展示する3階は「女の世界」と呼ばれている。もう一つ「神の世界」と呼ばれる地下1階には、原住民の伝統的信仰や祭礼文化に関する道具類が展示されている。占い用の壺や巫女の用いた薬箱、そして、少し恐ろしげであるが、実は人や神への畏敬にあふれた首狩り文化に関する文物などが置かれている。
三角形の建物なので、上階へ行くほどフロア面積は狭くなり、また内容は民族による分類でなく、「人と自然環境」「生活と道具」「衣類と文化」「信仰と祭儀」のテーマに分かれる。
特別なのは、同博物館内のパネルなどにある解説の多くが、原住民によって書かれているという点だ。林主任はこの点について、ほかの博物館では学者などの専門家に書いてもらうのが普通で、学術的に正確でも、実情とやや異なることがあるからだと言う。「外部の人間が見た特別な文化としてではなく、その暮らしや伝統に身を置く人々に語ってもらいました」
2階の石板屋の解説はルカイのお年寄りである邱金士氏に書いてもらった。また、ツォウである台湾師範大学の汪明輝教授による解説は、原住民の飲酒文化の淵源を説明することで、原住民に対する「酒好き」というありがちな偏見を解消してくれる。また、順益博物館設立1年目には特別展を開き、原住民に自分たちのことを語ってもらう機会を作った。最初の回は、監察院副院長である孫大川氏に、自らが育ったプユマの檳榔集落について話してもらった。
順益グループの林清富董事長によって1994年に設立された順益台湾原住民博物館は、台湾では数少ない個人による博物館だ。林威城主任によれば、同館の収蔵品はもともと台湾美術と原住民文物が多くを占めていたが、後に台北市立美術館が設立されたため、内容の重複を避け、原住民の文物を扱うことになった。林清富氏個人の収蔵品500点余りの寄贈に加え、コレクターや原住民のお年寄りから集めた物品の数々で、現在収蔵品は2000点を超える。
展示を魅力的なものにするために、順益博物館では絶えず新たな試みを取り入れている。今年はインタラクティブな展示を増やした。例えば、ホールに置かれた石板彫刻の前に立つと、プロジェクターからの投影で、石板の巫女や猟人が生き生きと動き出すように見える。
2階のルカイの石板屋にも同様の工夫がされている。石板屋の上方にあるLEDスクリーンに広葉樹林が映し出されるようになっており、入場者はまるで本当に山の中の石板屋の前にいるような気分が味わえる。
台東の文化的ランドマークであり、中央山脈を臨む国立台湾史前文化博物館は、先史時代までさかのぼって原住民を知ることができる。
順益原住民博物館では、陶器や壺、猟刀など2000点余りをコレクションしている。
先史時代から
1980年、台湾鉄路南廻線の台東卑南駅(現「台東駅」)の建設工事準備中に、地下から先史時代の大量の遺物が見つかった。台湾大学人類学科の宋文薫教授、連照美教授などにより、この卑南遺跡は台湾考古学史上最も完璧な形で残る集落遺跡であることが確認され、また、東南アジア及び環太平洋地域一帯で最大の組合式箱型石棺も出土した。
遺跡を残すために1990年、同地点に国立台湾史前文化博物館を建設することになり、10年余りの準備を経て2002年に開館した。台湾初の、先史、自然史、オーストロネシア文化という三つのテーマを扱う国立博物館となった。
「自然史」展示エリアでは、プレートの誕生や氷河期を経て台湾島が生まれる過程が示される。「台湾オーストロネシア人」ホールでは、広く東南アジアや太平洋の島々の民族、台湾の各原住民族の器物、社会制度、祭儀などを紹介する。同館の呼び物である「先史」展示エリアでは、人と海洋の関係、陶器、そして花東で出土した石器や玉器が展示されている。
中でも重要なのは、国宝級文物の「人獣形玉حi耳飾」だろう。大きさは手のひらサイズ、翡翠のような色で頭部は獣の形をしている。ほかにも、先史時代の工芸技術の高さを物語るものに、ラッパ型玉還や、直径1センチに満たない、透き通って光沢のある玉管や玉鈴、玉簪、玉حi耳飾などの装飾品がある。
同館のもう一つの見どころは「台湾オーストロネシア語族ホール」で、先史展示エリアと同様に、台湾原住民の歴史をさかのぼる内容となっている。国立台湾史前文化博物館の林志興副館長は、先史時代の文化を知るには、民族学的にルーツをたどって史料を収集する必要があるので、「台湾オーストロネシア語族ホール」を増設することになったと説明する。
考古学研究によって、オーストロネシア語族は新石器時代にさかのぼること、そして台湾原住民はオーストロネシア語族の子孫であることが知られており、遺跡出土品から集落や文化の特定も可能になっている。「先史時代を知るには原住民文化を知る必要があるのです」と林副館長は言う。
同館ではまた、中国華南の少数民族や、東南アジア、南太平洋諸島の民族についても展示する。
原住民として初めて人類学を専攻した林志興副館長は、1990年に同博物館の開館準備に加わった。林副館長によれば、オーストロネシア語族との関係を明らかにし、周辺の民族の文物も収蔵するのは、台湾だけを見て台湾を理解するのでなく、広い世界地図の中に台湾を置いて見てほしいからだと言う。それはまた、中央研究院アカデミー会員の張光直氏、台湾大学人類学研究所の連照美教授、そして臧振華氏といった人類学者や歴代館長が、同館設立準備の際に持っていた広い視野でもある。
1980年に先史時代の遺跡が発見されたことから設けられた台湾初の遺跡公園「卑南文化公園」。ここには少なからぬ石棺や生活用品が残されている。
都市で原住民文化と出会う
台東や台北の外双渓まで足を伸ばさなくとも、原住民文化は大都会の中でも我々との出会いを待っている。
新北投駅周辺の新北投公園、北投図書館、北投温泉博物館などに近接する「凱達格蘭文化館」は、原住民文化を知るには最もアクセスの良い施設だろう。
「凱達格蘭」とは、原住民のうち平埔族のケタガランのことだ。ケタガランは、中国大陸から漢人が移り住むより以前、スペイン人もまだ現れていなかった頃、大屯山や北投一帯に暮らしていた。この名を博物館に用いたのは、場所が北投であることと、原住民全体を広く紹介する芸術文化の新たなスペースにするという目的からだ。
地下1階にある「芸術原流」は、アミのアマヤ・サイフィックによる企画で、プユマ、アミ、ルカイなど、民族を超えて8名のアーティストがコラボし、インスタレーションやファッションデザインによって原住民アートに新たな息吹を与えている。2階の常設展は、「現代芸術作品」「生活用品と楽器」「アクセサリー」「祭儀用品」の4テーマに分かれ、椰子の実の殻で作ったタオの食器や、社会階級を表すパイワンの「肩帯」、鏡やイノシシの牙を飾ったサイシャットの「頭目帽」などが展示されている。
比較的有名な10民族に関する展示だけでなく、それ以外の、まだ正式な名称のない「平埔族」についても詳しく紹介している。2階では「平埔文化」をテーマに文物を展示、3階では平埔族を歴史的に紹介する。北投で温泉文化に親しんだ後、「凱達格欄文化館」に足を伸ばし、400年余り前にこの地で集落を成していたケタガランのことをもっと知るのはどうだろう。原住民の残した文化や暮らしの痕跡が、この島を豊かにしてくれていることが実感できるだろう。
各自治体や民間によって原住民博物館が相次いで設立され、この島と原住民の記憶を留めようとしている。また、2019年に新北市鶯歌で起工予定の「国立原住民族博物館」は、原住民復権運動が始まって20年余りたった今、原住民文化をより完全に、豊かな形で示してくれるだろう。
1980年に先史時代の遺跡が発見されたことから設けられた台湾初の遺跡公園「卑南文化公園」。ここには少なからぬ石棺や生活用品が残されている。
自らもプユマの血を引く国立台湾史前博物館の林志興副館長は、史前博物館の設立は原住民族にとって極めて大きな意義を持つと語る。
凱達格蘭文物館の前、原住民族の特色を融合したトーテムのモザイクタイル。

ルカイの文化において織物技術は重要な位置を占めてきた。(本旨資料)