工業高校の星
黒ぶちメガネに、色白で知的な風貌の陳彦廷は、台湾の工業高校出身者の代表である。
「小さい頃から絵が好きだったが、勉強は不得意で、一生懸命勉強しても成績はクラスの真ん中くらい、時に先生から電話がかかってきて、お子さんは授業中ぼんやりしたり、急に笑い出すと言われました」と、明るい性格のお母さんは長男の学校時代を話す。高校共通入試の時、ランク5位の台北市松山高校なら入れる成績だったが、子供の能力を考えて、周囲の反対を押し切り、近くの私立基隆二信職業高校の広告デザイン科に進学させた。
現実的で柔軟な両親の方針で、陳彦廷は一歩早く自分のやりたいことを見出し、デザインの道に進むことを決めた。3年生のとき、美術、印刷とコンピュータ・グラフィックの基礎を築き上げ、卒業後は台湾科技大学デザイン学部の商業デザイン科に進学した。
台湾科技大学での最初の3年は、基礎固めの重要な時期で、旺盛な学習意欲を持つ彼は水を吸う海綿のように知識を吸い込み、それを自身のエネルギーに転化していった。
2007年の卒業制作が、将来を決める鍵となった。「時期が来た、影響力ある作品を作らなければと、普通の人に余り知られていない切り紙を選びました。失われつつある民間工芸を内外に知らせようという思いもありました」と話す。切り紙を学ぼうと、切り紙の人間国宝李煥章を何回も訪ね、複雑な技巧を学びながら数十年に及ぶ創作経験の話を聞いた。そこで旧時代の切り紙細工は新しい都市に入り込めないとこぼす李煥章の言葉に、陳彦廷は二つを結び付けられないかと考えた。
その創作短編アニメ「鋏Cutting」では、コンピュータ・アニメと実写を巧みに組合わせ、登場する切り紙マジシャンの手で、現代都市と伝統的な切り紙が重ね合わせられる。町並みは切り紙の繰り返し模様に転化し、建物の間の距離がすかし模様となる。マジシャンが鋏を振うと、都市に新しい町並みが生まれるが、それは人が願えば、切り紙工芸も現代都市の中に新しい生命を吹き込めることを表している。独創的で、しかも言外に意を込めるアニメとポスターは、期待通り国際賞を受賞して高い評価を受けた。これが自信につながり、留学のチャンスをつかむことができた。
ニューヨークでの留学時代、芸術的な環境と優秀な同級生に刺激を受けて、陳彦廷の創造性は潮のように湧き上がった。環境保護意識を主題としたポスターが、メキシコやポーランドのポスタービエンナーレ、Adobe Design Achievement Awardなどの国際賞を次々に受賞した。
中でもフェラーリ、ダッジ、SAABなどの自動車エンブレムの馬や羊、ライオンなどが排気ガスに苦しむ図案で、自動車メーカーが温室効果ガスの元凶であることを暗喩したポスターを発表した。このポスターで、米国コンピュータ学会コンピュータグラフィックス分科会のSpace-Time賞を受賞した。審査員からは、シンプルなデザインながら、強い訴求力を持つと絶賛されたのである。
今年アメリカのIDEA賞を受賞した「簡単キャップ」はシリコンの蓋の調味料入れ。蓋を押すと中身が出せる。