「都市文学」ブーム
やや難解な台湾の純文学や文化的作品は、大陸市場ではじっくり時間をかけて売っていく必要があるが、大きな売上が見込めないため、こうした本が大陸で発行される機会は少ない。このような現実から、ここ2年ほど大陸でブームとなっている台湾作家の本は主に自己啓発のものや都市文学と呼ばれるものだ。中でも蔡智恒、王文華、幾米などを中心とする「都市文学」に人気が集まっており、1点あたり20万部の売上が基準とされている。
蔡智恒の『初めての親密な接触』は2000年にネット文学ブームに乗って大陸で大ヒットし、紅色出版社と城邦グループはこれをきっかけに大陸市場に参入することとなった。ここ数年、大陸ではネットを使ったキャンペーン、サイン会、マスメディア動員、作品の演劇化といった手法がネット文学や都市文学の宣伝方法として定着している。
ジミーと王文華の作品は、大陸の都市の消費習慣と台湾のそれとの近さを象徴している。
ジミーの絵本は2000年に『世界絵本大作家シリーズ』という形で大陸で発行されたが、初版の5000部も完売できず、大陸の出版社は躊躇した。精緻なイラストを主体とした本が売れるほど大陸市場はまだ成熟していないのではないか、と考えたのである。しかし民間の出版社である北京正源図書公司の王冬プロデューサーの考えは違った。彼女は、本の印刷と質感を台湾のものと同じレベルにすれば必ず売れると考え、実際にそうしたところ、大ヒットしたのである。
「画風は現代的で、物語は中国風に婉曲で繊細というジミーの本は、大陸で新興の『プチブル階級』の感性にマッチし、大ヒットしたのです」と王冬さんは言う。今や大陸の若者の間では「恋愛したいなら、まずジミーを読め」と言われているそうだ。ジミーの本は台湾海峡を越えて、意外にも恋愛の教祖になったようである。
何かが流行するには一定の偶然性があるが、本の場合は内容がおもしろく、市場のテイストと読者の趣味にマッチしていなければならないと王冬さんは言う。例えば、台湾の呉若権の『光のある所に立って』などの3冊は、ちょうどSARSの時期にぶつかって何も宣伝をしなかったが、かなりの売上を記録した。呉若権は今年の11月に北京、上海、広州などでサイン会を開くことにしており、大陸では注目され始めたばかりの新スターである。
この他に、作家にふさわしい出版社を選ぶことも重要だ。
夕刊紙「北京晩報」の記者・孫小寧さんによると、大陸の出版の中心地は北京で、北京のマスメディアによる書評は全国的に影響力を持つため、理屈から言えば初版の発行は北京から始めるべきだという。しかし王文華の『蛋白質ガール』は、いわゆる青春文学ブームを巻き起こした上海の世紀出版グループに舵取りを任せた。上海人は流行やブームを生み出すのに特に長けており、それが『蛋白質ガール』のスタイルとマッチし、同書は発売から1ヶ月で15万部を記録し、作家も出版社も大きな利益を上げることができた。
大陸の巨大な市場では、出版業界紙の「中国図書商報」だけでも6万部余り発行されている。写真は同社のメンバーだ。