生活空間の拡大
キャンプの最大の魅力は、生活空間の拡大だろう。台湾は広いとは言えないが、高山や湖、多様な自然に恵まれており、交通の便も良いなど、キャンプに適した条件がそろう。景観の良さとキャンプ地点の選択には高い相関性があり、統計によれば、自然の景観に恵まれ、もとより観光の盛んな南投県は、キャンプ場数も台湾一を誇る。
中華民国キャンプ協会の統計によれば、今年8月までで、常態的にキャンプをする人の数は台湾全体で200万人を突破し、キャンプが台湾人にとってポピュラーなレジャーの一つになりつつあることがわかる。中華民国キャンプ協会の元会長である林晋章は、この3年間でキャンプ人口は7~8割成長し、キャンプ用品産業も2013年~14年に業績が5割伸びていると指摘する。
キャンプ用品だけでなく、自動車業界も呼応してキャンプに適した車種を売り出すようになり、以前はあまり売れなかったキャンピングカーも徐々に利益を上げ始めた。また旅行業界でも定期的にキャンプ・ツアーを組むところが少なくない。とりわけキャンプ初心者を対象にしたプランが最近は増えている。
「ここ数年、台湾のキャンプ場使用料にもブームの影響が表れています」と林晋章は言う。キャンプ場の使用料は値上がりを続け、2014年は平均700元だったのが、2015年には800元を超えそうだ。しかも人気のキャンプ場となると、予約待ちも珍しくない。
今年9月、台北市と中華民国キャンプ協会が共同で運営する華江橋キャンプ場が開幕した。都心に最も近いこのキャンプ場は、華江河浜公園のサイクリングロードやスポーツ施設が利用でき、まさに近年増えつつある家族キャンプ愛好者をターゲットとしている。「特に初心者に向いています」と林晋章は言う。
計画設計の行き届いた華江橋キャンプ場は、夏でも蚊などに悩まされることがない。テントだけでなく、オートキャンプも可能だ。キャンピングカーなら水道や電源に接続できるなど、国際キャンプ連盟の基準にも沿っている。最も特別な点は、民間業者との提携で、キャンプ場内でキャンピングカーのレンタルを可能にしたことだ。
このキャンプ場の風景を遠くから眺めると、ヨーロッパの多くの都市郊外で見かける光景を思い出す。ロマの人々が集まって、キャンピングカーなどで暮らす風景だ。
実際、キャンピングカーの誕生は、ロマの人々の流浪生活と関係がある。彼らは家財道具一切を馬車や牛車に積み込んで移動した。自動車の時代になり、洗面や炊事設備を車に供えたというわけだ。それがキャンピングカーの標準設備となり、移動式家屋と言えるようになった。ヨーロッパの都市郊外に集まるロマたちは、今でもキャンピングカーに暮らすことが多い。
キャンピングカーは欧米ではポピュラーで、内装も非常に豪華にしつらえてある。広々とした車内にはダブルベッド、液晶テレビ、エアコンと何でもそろい、ジャグジー付きの広いバスルームを備えた車もあるほどで、こうなるとキャンプというよりはホテルといってもいいだろう。
「キャンプをしなくても、宿泊施設としてキャンピングカーを利用することもできます。一泊朝食付きですので、出張に来たビジネスマンが泊まっていくこともあります」と林晋章は言う。
10月、このキャンプ場は「第17回アジアパシフィックラリーin台湾」の主要開催地となった。ポルトガル、イギリス、フィンランド、ポーランド、トルコ、スウェーデン、日本、韓国、モンゴル、マカオ、マレーシア、シンガポールの12ヶ国から会員が参加し、国内からも1000人以上が集まって、大いににぎわった。
スポーツ大会の開催が設備の改善を促すというのはよくある話だ。かつてのキャンプ場は明確な基準に欠け、快適なキャンプができない所もあった。近年、キャンプの人気が高まった後でも、洗面やシャワー設備が整わず、キャンプ客ががっかりして帰ることもあり、そうした悪い評判が口コミで広がることもある。
「こうしたことを一度でも経験すれば、再びキャンプに行こうとは思わなくなります。こういうことをなくしたい、と我々は願い続けてきたのです」キャンプ場の設備基準や料金設定、或いは環境整備や安全問題など、まだまだ改善への努力が必要だと、林晋章は語る。
1991年、FICC(国際キャンピング&キャラバニング連盟)世界大会が台湾で開催されることとなり、中華民国キャンプ協会は自治体と協力して台北県(現在の新北市)福隆に1000人を収容できる龍門キャンプ・レジャー・センターを建設した。すべての設備を世界基準に則って作ったので台湾で最も良いキャンプ場となり、キャンプ活動が家族のレジャーとなることに大きく貢献した。「台北市との協力で進める華江橋キャンプ場も、今後のキャンプの模範になればと願っています」と林晋章は言う。
週末には仲間を誘ってキャンプに行こう。みんなで一緒に料理を作り、山の景色も楽しめる。