辺りに漂う煙の香り、親の体にしみ付いた炭の灰、これは「木酢達人」CEOの陳偉誠の幼い頃からの記憶だ。新竹県湖口郷出身の彼は、木炭工場経営の二代目で、幼い頃から両親が汗を流して木炭を作るのを見てきた。玩具は工場に積まれた木材、遊び場は熱気の充満する木炭工場だった彼は、木に対して特別な思いがある。

ガスの普及で、工場の売上が日増しに悪化したため、陳偉誠の父は、ほかに活路を見出すことを考え始める。2003年に工業技術研究院が木酢液抽出技術を民間へ移転するという話を聞いた父親は、友人とともに1000万元を投資して設備をそろえた。幾度か試した後、木酢液の抽出に成功、それを別の工場に委託してシャンプーとボディシャンプーを開発した。だがいくら「天然」と謳っても、酸性のきつい臭いが鼻をつき、消費者には受け入れてもらえず、父親の投資は失敗に終わりそうだった。

木酢達人が開発した木酢液を使った洗剤類やスキンケア用品。

大自然の貴重な贈り物

当時、台湾南部の大学の3年生だった陳偉誠は、下宿代を節約するため、父の仕事のパートナーである友人の工場で暮らしていた。工場は蒸し暑く、陳偉誠は持病のアトピー性皮膚炎を悪化させ、全身が腫れて、ひどいかゆみに襲われていた。「いろんな方法を試してみてダメだったのが、木酢液でよくなるとは思いもしませんでした」木酢液には殺菌消毒の効果があると父が言っていたのを思い出し、わらにもすがる思いで工場にあった木酢液を腕につけてみたのである。「すると痛みが治まったのです。試しにと顔の半分側にも塗ってみると、なんと塗った半分は腫れが引き、残りの半分はお化けのように腫れたままでした」と陳偉誠は笑う。

この「人体実験」の後、日本の研究報告を読んで、木酢液には、洗浄、消毒、殺菌、防臭などの効果があることを知った。「木酢液は、木炭の製造過程で生じる水蒸気や煙から抽出したもので、天然なので環境にも害になりません。いわば大自然からの貴重な贈り物ですから、大いに利用すべきです」と陳偉誠は思いを込める。

その後、陳偉誠は数人の友人と何度も実験を繰り返し、木酢液をベースに、それぞれ異なる調合比率で、ボディシャンプーやスキンケア用品、洗剤、防虫剤、ペット用洗剤などの製品を開発していった。ベビー用のスキンケア用品も作ったほどである。また、製品に配合する起泡剤や精油は天然のものにこだわり、不必要な化学物質は加えず、木酢液自身が持つ浄化抗菌作用を生かすようにした。

木酢液は木炭焼成で出る煙や蒸気から作られる。洗浄や殺菌消毒などの機能を持つ木酢液は大自然からの貴重な贈り物と言える。（陳偉誠提供）

自然界の黒ダイヤ

以前は炭焼きで生じる煙は大気汚染の元凶とされたが、科学的解明により、そこには木材が長い年月の間に蓄えたエッセンスが含まれていることがわかった。「この地球で何百年何千年と生き続ける樹木は、まさに天然のバリアとして私たちを守ってくれているのです」と陳偉誠は言う。台湾における木酢液の応用は始まったばかりだ。今後さらに多くの人がこうした取り組みに加わり、この地球を守っていければと、彼は願う。

竹炭もまた大自然の宝である。高温で焼かれた竹は細胞内の水分が蒸発し、細胞壁が残る。顕微鏡で見てみると、立体的な網のようだ。「竹炭1グラム当たり比表面積は約300平方メートルあり、ほぼテニスコート一つ分に相当します。これが竹炭にスポンジのような高吸着力をあたえています」と、台湾生態材料産業発展協会理事長である陳渓洲は言う。

台湾の竹炭製造は2002年に始まった。当初はそのまま用いて水やご飯の浄化に、或いは砕いて除湿防臭に利用した。やがて研究開発が進むにつれ、セラミック研磨技術を応用して竹炭をナノレベルの微粉末にし、遠赤外線効果を引き出せるようになった。体を温める衣類や寝具に使われている。青竹文化パークにある竹炭エネルギーハウスには竹炭繊維で作った布団やマットレス、枕が置かれ、床板の下にも竹炭が大量に敷かれており、宿泊客はその心地良さを体験できる。

新竹県湖口の古い町並みにある「木酢達人」は、伝統の木炭産業に新たな可能性を切り開いた。

生活をさらに便利に

高温活性化された竹炭は、天然食用色素として食べ物に入れることも可能だ。青竹文化パークの陳靖賦も「最初に作ってみたのは竹炭麺と竹炭水餃子で、保水性が良くなり、冷めてもくっつきにくくなりました。世界貿易センターの食品フェアで披露すると、みな驚いていましたよ」と自信を見せる。

ほかにも驚くべき製品は、2015年に特許を取得した竹炭ペーパーだろう。武岫竹炭窯と屏東科技大学が長年にわたって共同研究し、吸着と鮮度を保つ効果のある紙を開発、気体吸着性能は92％にも達する。例えば、果物の発するエチレンを吸収するので、輸送の際に果物の熟成が進むのを防ぐことができる。すでに竹炭ペーパーは、輸出用生花や果物の包装材料に用いられ、鮮度を保つことで、製品価値を高めている。ほかにも壁紙に用いて、部屋の中の有害物質を吸収する効果を発揮している。

竹炭には導電性もあるので、台湾は他国に先駆けて竹炭電動車を開発した。これまでの電動車には2ボルトの電池が2個必要だったが、竹炭電動車では1個ですみ、さらに6個の竹炭コンデンサを加えることで充電時間は半分ですむ。体の不自由な人や高齢者がこの電動車でより快適な生活が送れることを期待したい。

暮らしにおける利用という発想で、木炭や竹炭は衣食住のあらゆる場面に用いられている。これらの研究と発明がさらに進み、創意あふれる多くの製品を生み出せれば、私たちの暮らしはさらに豊かで明るいものになるだろう。 

高温で焼成する竹炭を使えば電気抵抗を小さくできる。その導電性から、科学者は新たな竹炭の応用を研究している。

多くの人の研究や創意によって、暮らしのいたるところに炭が取り入れられるようになってきた。