理想と現実のギャップ
公園も地下街も、入口には「霊獣」の彫刻があり、「海上蓬莱」や「三龍戯珠」の噴水があり、民俗と宗教の象徴を設計全体に貫いている。台北市のきめ細かな配慮がそこここに感じられる。
例えば艋;舺;公園内には「仏祖の鏡」で仏の慈悲を象徴した「美人照鏡池」がある。これはごく普通の景観用の池ではない。毎朝9時から夜9時まで、一時間おきに池の底の598の噴水口から水柱が吹き出し、20種類のさまざまな水の舞を楽しむことができる。また、噴水でできた水の幕に専用のプロジェクターを用いて幅15メートルの影像を映し出すこともできるのである。
池の前の廟埕;広場の地面には、西洋の12星座と中国の「星宿星象誌」の図案があり、夜になると、地面に組み込まれた星座が光を放つ。広場の横では中文、英語、日本語による音声解説を聞くこともできる。
しかし、巨額の予算を投じて造られた美しく知的なハイテク設備も、艋;舺;という雑多なものが入り乱れる土地柄とは相容れない。戴伯芬准教授は「人間性の尺度が不十分」なため、住民には馴染みがたい場所になっていると指摘する。
「設計する前に、人と空間との関係をより深く考え、誰がこの公園を使うのか、どのような活動がここで生まれるのか、などを十分に検討し、それからそれらにふさわしい施設を組み込んでいけば、現在のような状況は避けられたかも知れません」と言う。
そこで戴伯芬は、今後の使い方をこう提案する。艋;舺;公園の広場を龍山寺の広場の延長ととらえ、芝居の野外舞台を造り、休日には蚤の市などを開いて、まずは人が集まる場へと変えていき、それから少しずつ美感を高め、洗練された場へと変えていけばいい、と。
万華は現代化や観光化を進め、洗練された街へと変っていくべきなのだろうか。それとも昔ながらの気取らない下町風情を残すべきなのだろうか。冬の暖かい日差しの中、龍山寺一帯を訪れ、自分の答えを探してみてはどうだろう。
龍山寺の地下街(地下2階)では、当初入居した店が次々と閉店するという衰退を経て、現在は単一のチームが経営権を落札し、高齢者向けの伝統的な買い物空間を造ろうとしている。