主役とも言える音響効果
都市のイメージとスポーツのエネルギーをビジュアルのメインとするほか、音響も極めて重要な役割を果たしている。フィルムの最初には、台北市民にとっては馴染み深いMRTの放送が聞こえ、続いて選手たちの緊張した息遣いや心音が入る。「何も説明するまでもなく、音が聞こえれば観客の頭にはイメージが浮かぶでしょう」と話す劉耕名は、カナダから音響技師のチームを招き、制作に加わってもらった。映像に親しみのある音が加わることで、観る者は自分の記憶を呼び覚まし、共感を得ることができる。
この3本目のフィルムが公開されると、大変な好評を博したが、劉耕名は「想像以上」と言う。アニメーションと実写などを複合したフィルムを作成するために、劉耕名が率いるBito Studioの他に、短編フィルム監督の程季皓とスポーツ映像に長けた尹国賢も制作に加わった。
昨年、ユニバーシアード宣伝フィルムの仕事を受けて以来、会議室やオフィスにはメンバーの発想を書いた付箋が大量に貼られている。完璧な映像をつくるために、二組に分かれたチームは、陸海空にハイスピードカメラやドローン、GoPro、水中ハイスピードカメラを出動させ、普段の暮らしでは目に出来ない上空や水中からの映像をカメラに収めた。また、アスリートの力と美をとらえるために、20数種目の選手を撮影し、野球の撮影には選手9人を総動員した。
だが、映像の編集は「引き算のアート」だと劉耕名は言う。素晴らしいシーンも、全体のリズム感を貫くために捨てていかなければならない。例えば、ある体操選手のあん馬の跳躍は、見事な弧を描いており、爆発力を感じさせる筋肉のラインも美しく、劉耕名にとっても印象深いシーンだった。チームとしてはこの映像をエンディングに使いたいと考えていた。しかし、最終的に全体のリズムを考慮して、採用することはなかったのである。「このシーンだけではありません。作品に使われなかった素晴らしい映像は他にもたくさんあるのです」と劉耕名は言う。
すべてのシーンは、撮影前にチームで十二分に議論を重ね、カットもすべて決めていた。事前に十分に計画していたものの、上空から撮影したテニスコートやバスケコートの幾何学の美に、劉耕名は視覚的に大きな衝撃を受けたと言う。
公的部門の映像制作は、劉耕名とそのチームにとっては初めてのことだった。これまで、政府の作品の出来が良くないと、周囲では批判の声が上っていたが、それなら自分たちで変えればいいと考えた。こうした使命感を持ち、世界レベルの映像を制作して、作品を通して声を上げようと考えたのである。

各界を驚かせたユニバーシアードの宣伝フィルムTaipei in Motionを制作したBito Studioのディレクター劉耕名は、3組のチームを率いて作品を完成させた。(林旻萱撮影)