良い光を世界に
台湾で最後に電力が供給されたことから「暗黒の集落」と呼ばれたこともある新竹県のタイヤルの司馬庫斯集落だが、ここも光害の影響を受けていた。ある時、この集落を訪れた周卓煇は、夜間に強い街灯の光の影響を受けて自然景観と星空がよく見えないことに気付いた。そこで現地の牧師と話し合い、街灯を燭光OLEDに替えることを提案した。
共同運営されている司馬庫斯集落で、周卓煇は教会で村民に提案し、燭光OLEDが環境にもたらすメリットを説明して皆の同意を得た。ただ、大自然の中に設置するため、防水措置などさまざまな処理が必要となり、4年を経てようやく300台が集落の各所に取り付けられた。
司馬庫斯集落の長老Yuraw Icyangさんは、燭光OLEDが点灯した瞬間のことを思い出す。「本当に感動しました。子供の頃に、父が集落の年配者たちとともにゴヨウマツの松脂に火をつけた時のような温かみを感じました」と言う。この司馬庫斯での試みを通して、多くの人に人体と環境にやさしい明かりの重要性を知ってもらいたいと考えている。
ブルーライトに関する知識や道具を持たなければ、身体や環境は保護できないと考える周卓煇は、光や照明に関する正しい知識の普及のために専門書『擁抱暗黒(暗闇を抱く)』を出した。またフェイスブックに「抗ブルーライト専門家」というページを開き、動画を通して照明と睡眠に関する医学知識の普及に努める。さらに清華大学の特許を用いて「ブルーライト・ハザード定量化分光放射計」を開発し、オフィスの照明やLEDライトなど、特定の明るさのブルーライトによる目へのダメージやメラトニンへの影響、最長使用時間などを数値化している。
現在清華大学の照明チームは、南部サイエンスパークと協力して橘宝科技公司(Orange Babe)を設立し、燭光OLEDデスクライトとブルーライトカットの眼鏡を販売している。現在のところ、デスクライトは少量生産のため高価だが、大量生産が実現すれば手に入れやすくなる。周卓煇は著書『擁抱暗黒』の英語版の出版も計画しており、この「台湾の光」を世界に広め、より多くの人の目と身体を守りたいと考えている。
司馬庫斯集落の木造の小屋に取り付けられた燭光OLEDライトは、自然景観によく馴染む柔らかいオレンジ色の光を放つ。(清華大学OLED照明チーム提供)
司馬庫斯集落に燭光OLEDの街灯を取り付ける。光が上に漏れないよう籐のカバーがつけることで光害を防ぐこともできる。(清華大学OLED照明チーム提供)
司馬庫斯は、世界で初めての「ブルーライトレス照明モデル集落」となり、2020年には台湾光環境賞を受賞した。(中強文化芸術基金会提供、趙宇晨撮影)