最高傑作「ドクター・ストレンジ」
顔振発は昨年描いた「ドクター・ストレンジ」の看板を取り出し、「これが最も難しい挑戦でした。生涯の技がすべて活かされています」と満足そうに言う。そこに描かれたドクター・ストレンジの人物は立体的で背景は奥行きがあり、前へ突き出した手の部分は透明で顔が透けて見える。それは医師の手であり、超自然事件を解決する魔法の手でもある。顔振発の筆は主人公を生き生きと描き出しただけでなく、作品の特色である特殊効果や視覚効果をも表現しており、ドクター・ストレンジがそこにいるかのように感じさせる。
「プロは皆この作品を称賛してくれます。ポスターよりよく描けていると」と顔振発は言う。原理さえつかめば、動きと立体感が生まれ、生命力がほとばしる。まさに代表作と言えるだろう。
彼は師匠である陳峰永の技法を受け継ぎつつ、長年をかけて独自の技術を生み、独特のスタイルを築いてきた。
全美戯院の映画看板教室には、すでに多くの固定の生徒がいるが、顔師匠の厳しい要求をクリアして独り立ちできるまでになった人はいない。「まだまだ不充分です」という顔振発は、タッチが活きておらず、顔の皮膚の感じが描き出せていないと言う。
生徒の一人、呉昊沢は顔振発に師事して3年になるが、まだ師匠の画風とペンキの画法を学んでいる最中で、普段は助手を務めている。呉昊沢は、何とかして顔師匠の言う「原理」を会得し、「ドクター・ストレンジ」に見られるような表情を描きたいと頑張っている。
生涯を映画看板製作にかけてきた顔振発は、最近は網膜剥離に苦しみつつ、今も創作を続けている。独身の彼にとっては絵画こそが家族なのである。映画看板はポスターを模写したものではあるが、それでもそこには創作と限界を超える楽しみがある。
顔振発は仕事の合間に油絵も描き、コンクールに応募している。自分の描いた映画看板が高く評価されるようになり、謙虚な彼は興奮しつつも、すべて師匠・陳峰永のおかげだと語る。
印刷技術が人類の文明を変えたように、手書きの映画看板はデジタルプリントへと変わりつつある。それでも謝森山と顔振発は手描き看板制作に専念し、台湾の南と北で昔ながらの文化を守り、その名を内外に知らしめている。
全美戯院が開く手描き看板教室で、顔振発はポスターを片手に自ら筆を執って指導する。
顔振発の素晴らしい映画看板に惹かれ、日本から学びに来た伊藤千明さんと。
生涯を手描きの映画看板に注いできた顔振発は、網膜剥離に苦しみつつ、今も創作を続けている。