かつての京町通り
北門周辺には昔の風景が多く残る。すぐそばにあった高架橋が撤去され、広くなった空間に堂々と立つ北門は、今やこのエリアのランドマークだ。北門の周囲には幅広い歩道や小さな公園が作られ、周辺には文化財に指定された建物なども多いので、ゆっくりと歩きながらその風景を楽しんだり、各スポットを訪れて歴史の知識を充実させたりもできる。
現在の博愛路や漢口街は「北門カメラ街」とも呼ばれ、撮影機材を売る店が最も多く集まるエリアとして知られる。スマホの登場でかつての盛況はすでに見られないものの、フィルムを使い、暗室で写真を現像していた時代、ここは外国製カメラが最も安く買え、機種もそろっていたエリアだった。
博愛路、館前路、衡陽路は、かつては京町通り、表町、栄町と呼ばれ、百貨店なども並び、政治経済の中心地だった。館前路はかつては台北駅の前からまっすぐ伸び、町の設計としてバランスの良い美しさを見せていたが、鉄道地下化などに伴って台北駅の位置をずらしたため、今は館前路は台北駅の正面ではない。
北門の斜め向かい、博愛路にあるカフェ「京町8号」には、作家や学者が好んで訪れる。実践大学建築設計学科准教授の李清志や作家の張大春も常連客だ。「北門で博愛路と延平南路が交わるので、その2本の通りに挟まれたこの辺りの建物は北門に近づくほど奥行きが狭くなり、店は両側どちらにも出られる作りになっています。あちら側には郵便局の古い建物、こちら側には洋館『撫台街洋楼』と、ここは両側に文化財の見られるカフェなのです」と李清志が説明してくれた。
李清志は旧市街に来るのが好きだ。「たいていこの裏で猪脚飯(豚足丼)を食べ、食後にここに来てコーヒーにします」天気が良ければ外で建物をスケッチしたりもすると言って、ポケットからノートを取り出し、自ら描いた洋館を見せてくれた。「撫台街洋楼は1910年の建造だからすでに100年を超えます。バランスの取れた美しい姿で、ここに座って見ているとヨーロッパにいる気分になります」優美な石造りのポーチ(騎楼)を持つ洋館だが、かつては高架道路のランプ‧ウェイの下にあり、荒れ果てて「幽霊屋敷」と思われ、おかげでこうして残っている。
「京町8号」の入り口から、老舗「鄭記猪脚飯」が見える。まだ正午にならないというのに客が絶えず、店主は忙しそうに料理を作っている。どの客の前にも店の看板料理——トロトロに煮込んだ豚肉がご飯に載った猪脚飯がある。スープは無料でお代わりも自由だ。

天気が良い日、李清志・准教授はカフェ「京町8号」の廊下に座り、百年の歴史を持つ建築物を愛でる。