食物や喜びを分かち合う
食品ロスを防ぐことは、人の距離を縮めることにもなる。台中にある七喜厨房社会企業有限公司は、創立者である楊七喜の「野菜も人と同じで、余り物などはない」という信念から生まれた。
当初、楊七喜は路上生活者に食事を届ける活動をしていた。ある日、市場の有機栽培野菜店で自分たちの活動理念を説明することになった。するとその店主は、見た目が悪くて売れ残った野菜を提供すると、あっさり承諾してくれた。こうして彼女の食品ロスへの取り組みが始まった。仲間とともにほかの店も回って協力を求めると、ある市場では何人もの食事がまかなえるほどの大量の売れ残りを提供してくれることになった。そこで楊七喜は、それらで料理を作って皆に食べてもらうことを思いつく。「売れ残り食材で作った料理を食べたい人は、台中市華美街に来てください。代金は、ご自由な金額を箱に入れていただくか、皿洗いや後片付けで返していただいてもけっこうです」と呼びかけた。これが楊七喜「七喜厨房」1号店の、思いがけない誕生だった。
華美街の七喜厨房は、「ご近所の厨房」であることを目指した。スタッフは昼間に近所の市場で、折れた葱や、スの入った大根、豚の内臓、鶏の屑肉などを集めて回り、華美社の厨房に持ち帰って、スタッフやボランティアの手でそれらを各種料理に生まれ変わらせた。
夕方、家族連れや独身者、学生、そして経済的に苦しい人も、皆やって来て食事する。華美社区厨房の廖佳倫店長は「ここは6時半に開きますが、時には7時前には料理がなくなり、慌てて近所にご飯をもらいに走ります」と言う。また通りがかった近所の人も入ってきて声をかけ、ついでに何か入り用の食材がないか見ていく。都会では少なくなった光景がここにはある。
本当に必要としている人に資源を分配できるよう、華美社区厨房では「無料冷蔵庫」を置いている。これは、料理に使わなかった野菜や豆腐を、店の入り口か冷蔵庫に置いておき、必要な人が自由に持って帰れるようにしたものだ。こうした地道な取り組みを続け、メディアにも取り上げられると、家で食べきれない食べ物を七喜厨房に持ち込む人も出始めた。こうして人と人とのつながりも生まれている。
楊七喜はこう言う。食品ロスの問題は、台湾でも多くの団体が取り上げているが、多くは資源の問題に限られてしまっている。余った食材を利用することで、高齢者介護や若者の起業、エコ農業、食品の安全性などの問題も、ともに解決する道があるはずだ。そこで彼女は台湾初の、食品ロス問題を解決するレストランを開くことにした。2017年4月、楊七喜は仲間とともに台中市育徳路に2号店「明日餐卓(明日の食卓)」を開いた。

大自然と食物と人々の力を合わせ、扌合生態厨房は捨てられる食材により多くの可能性をもたらす。