時が答えを出した味
60年受け継がれてきたこの味は、劉家が上質の原料と伝統的な醸造法で、年月をかけて作り出した、味わい深いものだ。
豆板醤の原料は極めてシンプル、辛さの元は唐辛子である。明徳食品は昔からずっと台湾の嘉南、高屏、台東で唐辛子を買い付けているが、年に200トン必要なので、収穫期に大量に購入する。作り方は、新鮮な唐辛子をまず洗い、それから砕く。塩を加えて6ヵ月間日干しにした後、発酵させた豆類を加え、豆板醤が出来上がる。
昔は質の良くない野菜などを漬け込み用にしたものだったが、明徳ではアメリカから輸入した、遺伝子組換えではない大豆を用いる。発酵した時の味が良いという。また、四川の豆板醤にはソラマメを加えるのが普通で、明徳でもオーストラリア産のソラマメを使う。「澱粉質の多いソラマメは発酵するとふくよかな味になり、大豆は蛋白質が多いので甘みが多い。この二つが一つになって明徳独特の豆板醤になります」と劉宇邦は言う。
大豆とソラマメはそれぞれ別に洗って蒸し煮した後、麹菌を加える。これは最も大切な工程だと劉宇邦は繰り返した。これをうまくやらないと、その後の日干しがいくら順調でも意味がない。現代では温度制御のできる製麹設備があるが、昔は温度・湿度管理のため、冬は布団をかぶせたり、夏は熱を逃がす工夫をしたりと、大変だった。
次の工程は甕への「仕込み」だ。麹菌を加えた大豆とソラマメを別々に甕に入れ、さらに塩水と天然の香辛料を加えて、その甕を南部の温かい太陽の下で180日間、日光浴させる。こうすれば高い塩分の下で、酵素が蛋白質と澱粉を徐々に分解してくれる。毎日かきまぜる必要があり、時間と温度の作用で豆板醤の味が形作られていく。
16年前に劉宇邦が経営を継いだ際、父親がまず彼に叩き込んだ仕事は撹拌だった。180キロの豆の入った甕を撹拌するのは容易ではない。
醤油の醸造と異なる点は、醤油は仕込んだ後そのまま置いておけばいいが、豆板醤は毎日豆を撹拌しなければならない。底の方の豆を上の方に上げて空気を吸わせ、発酵が完全に進むようにする。甕には保温効果があり、日没後はゆっくりと温度が下がる。こうして温度の高低を繰り返すことで風味がさらに増す。
台湾で食品の安全が問題になった際にも、原料や製造工程にこだわってきた明徳は、何ら影響なく営業を続けられた。それどころか消費者が食品の安全性に注意するようになり、自然食品店の「里仁」や、主婦連盟から注文が入るようになった。当初は迷いもあった劉宇邦だが、今では品質へのこだわりは正しかったと信じている。

伝統を守りつつ、新たな技術も取り入れる。熟成が終わった後は、オートメーションの生産ラインで品質を管理する。(明徳食品提供)